これは光のルアーに限らない。

しかしここで上がってくる疑問がある。

1000匹以上釣ったイカとイカではない何か。

確率的にゲーム内設定数値は相当低いはず。

ともすれば、釣れる生物は。

来る!

以前似た引きを受けた経験がある。

通常とは明らかに違う引き、点の様なアタリ判定。

これはあいつだ、巨大ニシン。

違う。もっと強い!

絆さん、船が引かれています

くっ! 硝子、しぇりるを呼んでくれ、あいつの銛スキルを使えばあるいは

走って船内へ消えていった硝子に意識を割けない。

逆に全神経を竿の先端に向けた。

脳神経と竿の糸を精神的に繋げ、一本の線に変える。

そして点を見つけ出し、力強く引き巻く。

リールという新たな要素。

俺が付けているのはベイトリール。

海釣りやルアー釣りと相性が良いという事で一緒に購入した。

最初こそ慣れるのに苦労したが、巻き上げる力が強いのが特徴だ。

難点はルアーを投げるのにコツがいる事だろうか。

なんでも現実でも似た様な特徴があるらしい。

ともかく繋いだ感覚を信じて点となる部分を引っ張りながら巻く。

絆、来た

しぇりる、俺の指定した場所に銛を撃てないか?

可能

頼むっ! 俺だけじゃ釣れそうにない

銛は元々スピアフィッシング的側面も持っている。

巨大な水棲生物を捕獲する際に最も適した武器は銛だ。

だからしぇりるは敵の体力を奪うにはうってつけの人材だと言える。

どこ?

待ってろ

この間も攻防を繰り返しながら意識を二分、敵の位置を探っていく。

糸と神経を擬似的に繋げているので探知できるはず。

例えるなら憎しみを追う、だろうか。

なるほど、媒介結晶にあるヘイトを増加させる、というのはこういう事か。

イカを1000匹以上釣っているので身に覚えが無いとは言わない。

だが、逆に憎悪が肌を焼く様なオーラとして伝わってくる。

位置は。

そこだ!

ボマーランサー

銛の中級攻撃スキルだ。

投げ槍の様に銛を射出する中距離攻撃スキル。

青白い紐がしぇりるの銛に繋がり、爆裂の様なエフェクトと共に海に射出。

ドスンッという敵に何かが、しぇりるの銛が突き刺さる感触が手にやってくる。

一瞬明らかに引きが弱まったので巻きまくる。

だが、直に再動した。

もう何発か出来ないか?

だいじょぶ

頼む

しぇりるに頼り過ぎるのは俺のプライドが許さない。

弱っていなくとも点を引っ張り、巻き続ける。

そして定期的に射出される銛仮にスタン状態と名付けよう。

スタン状態の隙を付いて巻きまくる。

このまま行くぞ!

そんな魂を磨り減らすかの様な攻防がどれ位続いたか。

確実に敵の体力は消耗されていた。

当然だ。こちらは二人で敵は一匹、負ける要因がこちらに無い。

しぇりる、次で決めるぞ!

yes

穿たれた銛の感触を合図に力を込め、敵の正体が

分かっちゃいたけどな

釣れた、というか捕獲したのは巨大なイカ。

どう見ても巨大ニシンの親戚です。ありがとうございました。

船に載せられないので現在ロープで牽引している。

ていうか、モンスター判定じゃないんだな。

クラーケンとか、そういう名前で登場させればモンスター扱いできるだろうに。

いや、しぇりるの攻撃をアレだけ受けたらモンスター扱いでも致命傷か?

銛は水棲モンスターと相性が良いからな。

ん? どうした?

あれは早く解体した方が良い

理由はいいや。わかった、解体するよ

理由は訊ねても聞けそうに無いが、しぇりるの目が妙に輝いている様に見える。

そういえばイカをバリスタの矢に使ったまでは良いが、毎日黙々とイカを食っていたな。

イカの消費量が一番多いのもしぇりるだ。

好きなのか?

ともあれ俺は言われるがまま巨大イカを解体した。

手に入った解体アイテムは

水神の触腕、水神のヒレ、水神の頭、水神の腕、水神の外套膜、水神の心臓、水神の瞳、水神の貝殻、最高級イカスミ、最高級イカの肉。

巨大ニシンの時と同じく妙に沢山取れた。

きっとぬしに属する奴は全部こんな感じなのだろう。

それにしても水神元がイカだと思うとアレだな。

仮にこれで武器を作ったらどんな物になるのか。

しぇりる、一応皆で決めると思うが、これ持っていてくれよ

そう?

なぜに疑問系?

いや、他意はない。しぇりるが持っていた方が良い事がありそうな気がしてな

勘だよ。そういえばさっき普段と違わない事言っていなかったか?

まあ良いか。

釣る事に必死で良く聞こえなかったし。

ともあれ俺は解体したアイテムを全てしぇりるに渡しておいた。

まだ決まってはいないが、良い武器になるといいな。

絆さん! しぇりるさん!

巨大イカを釣り上げた達成感に酔っている中、硝子が血相を変えて俺達を呼ぶ。

硝子が慌てているなんて珍しいな。こんな表情は初対面の頃に何回か見た位だ。

何かあったのか?

船が勝手に動いています

そりゃあ船なんだから動きもするだろう

そうではなく

硝子の言葉を遮ってしぇりるが上を指差した。

その方向は閉じられた帆。

周囲を見回す。風も無く波の少ない静かな夜。

舵スキル持ちが動かしている訳でもない。

それなのに。

船が不自然な速度で移動していた。

リミテッドディメンションウェーブ

こんな真夜中に一体なんの用だい?

アルトが眠そうに目を擦りながら言った。

周りにはほんの数分前まで眠っていた闇影や紡もいる。

闇影も最近は規則正しい生活が続いていたので眠そうだ。

紡に至っては半分寝ている。

船が何かに引かれているんだ

波ではないのでござるか?

舵スキルが効かない波なんてあるのか?

嵐の時だって沈まない様に動かす事ができた。

仮に何かしろの要因で舵スキルが機能していなかったとしても原因が分からない。

最初こそ巨大イカを釣り上げたから、という線も思考したがハズレていそうだ。

巨大イカが原因の場合、釣りが条件という事になる。

普通に考えて、そんな限られた条件ありえないだろう。

単にイカとの攻防で引っ張られた影響で、ある程度移動した程度だ。

その移動経路が帰らずの海域で何かしろの条件を踏んだ、と楽観視もできるが。

ともかく警戒態勢をなんだ?

誰かが肩を叩いたので振り返る。

が、誰もいない。

当たり前だ。この場には全員がいて、俺の右柄に闇影、紡。逆側にアルトとしぇりるだ。そして正面に硝子がいるという状況なのだから、後ろから肩を叩かれるはずがない。

絆さん。海で幽霊というと何を想像しますか?

そこはもうちょっと怖がってほしかった

真正面から俺を見ていたであろう硝子には正体が見えたらしい。

悲鳴を上げろとまでは言わない。

それでも幽霊的なイベント中に真顔で幽霊と~~』とか言われるとな。

まあディメンションウェーブはゲームだが、ちょっとは反応してほしかった。

さて、硝子の質問だが海で幽霊と聞くと頭に上がってくるのは。

幽霊船

そ、そそそ、そうなのでござるか?

僕の知る限り同じ条件で海賊船とかも定番だね

口にする前にしぇりるとアルトに言われた。

MMORPG的にもその手のダンジョンやイベントは多い。

逆に海が登場するRPGで出てこない方が珍しいといえる位だ。

後闇影、お前なんでそんなにビビってるんだ。

なるほどつまり、妙に肌寒いのも、霧が出てきたのも説明ができるな

霧で周囲が曇って視界が悪くなっている。

人魂の様な霧幽霊船であるならゲーム作者的に演出は上々だろう。

現に闇影が直前まで眠そうにしていたというのに足が震えている。

怖いのか?

闇影、突然わっ!』とか言って驚かすのが定番だが、やっていいか?

何を言っているでござるか!

いや、先に言っておかないと怒られそうだし

どうにも俺が口にする冗談は空気を読めないらしい。

そういう訳で、ありかなしか先に聞いておこうかと。

やらなくても怒るでござる!

そうかじゃあアルト

僕にもダメだからね! 昔からホラーは苦手なんだ

いや、やるとは言っていないが、お前等反応良すぎだぞ

ここまで嫌がられると逆に楽しくなるというか。

それに引き換えこっちの三人は。

なんですか? その目は

これはゲーム

幽霊はヒロインだよね!

約一名血を分けた妹だが、その言葉は聞きたくなかった。

オタク的な意味で。

いや、わからなくはないけどさ。

だからって幽霊船の話している時に幽霊はヒロインとか言うか普通。

風情も何もあったもんじゃないな。

幽霊船か敵、強いんだろうな

昼間でも結構大変だもんね~

まあその甲斐もあってパーティー全体のレベルは上がってきているが。

俺も元々のエネルギーの半分位は回復している。

一応暇を見つけてはイカを元素変換しているが、元素変換はランクがⅠで詠唱時間が長い。イカ一匹5~15エネルギー位の変換率で一時間700位しか増えない。

変換数が増えればランクⅡとか出るだろうし、定期的にやっているが未だ現れず。

ふ、ふふ、船が見えてきたでござる!? 怖くて驚いたでござる

それ以前にお前が未だに夜目を取得している事の方が驚きなんだが

お前夜は寝ているじゃねーか。

俺なんか随分前に未取得に戻しているぞ。

そんな事は置いておいて闇影が指差した方を眺める。

青白い不気味な光を煌々と放ち、VR特有の臨場感溢れるホラー映像が展開されている。

船の全長は超デカイ。

俺達の船ですら20メートルはある小型船だというのに、それを遥かに上回る巨大さ。

クルーザーが25フィート(約7、6メートル)以上の船を指す言葉だと以前しぇりるが言っていた。

なんでもクルーザーと言っても大きさはまちまちで居住空間と居住施設を備えたレジャー用のヨットやボートを差す言葉というのが現代の考えだそうだ。

そんな船の何倍? 何十倍か? は有ろう巨大なボロ船が前方に浮かんでいる。

帆は破け、木々はボロボロ、青白く発光していなければボロ船扱いされそうな幽霊船。

なんかひゅーどろどろ』とか流れて来そうな雰囲気だな。

闇影

ぎゃああー!

いや話し掛けただけで悲鳴はさすがに

そして面白そうなのでアルトの方を眺めると後ろを眺めている。

現実逃避か?

反応いいな、こいつ等。やっぱ仲間に一人はこういう人材が必要だよな!

絆、僕は君の評価を少し下げる事にするよ

なんで幽霊船一つでそこまで

君は今自分がしている顔を自覚した方が良い

ははっ!

まあ良い。今は幽霊船だよ。

取り敢えず戦闘準備をするぞ。さすがに幽霊船に敵がいないとかありえないだろ

元気に返事をした三人。

残り二人は相変わらず怖そうにしている。

特に闇影。お前ビビリ過ぎ。

アルトの場合は商人やっていたのでレベル的問題があるのでわかるが、闇影は俺達の中で一番スペックは高い。

ドレインが基本なのでステータスだけは硝子を上回る程だ。

まあ性格的に幽霊が苦手なのだと言われればそれまでだが。

そんなに怖いなら、お前等二人だけで残るか?

残る? ここに?

自分、絶対に付いていくでござる!

いや、船で待っていた方が安全だろう?

誰も居ない所の方が怖いものなんだよ!

そういうもんか? 俺ホラーとか昔から見慣れているから良くわからん

兄弟が多いとホラー映画とかレンタルでよく借りてくるんだよな。

しかも何故か一緒に見させられる。

最近だとVR機を映画に取り入れた主人公と同じ目線で見られるVR映画なんかもあったか。

ジャンルとしては好きでもないし嫌いでもない、という微妙なラインだがな。

そうこうしている内に船が幽霊船へ突撃する。

ピキンッ!

何かにヒビが入る様な音が響く。

これはほんの二週間前位に聞いた事がある。

あれは。

強い閃光が発生し、空間が歪む

リミテッドディメンションウェーブ。

リーダー   1 絆†エクシード。

サブリーダー 2 函庭硝子。

メンバー   3 闇影。

4 しぇりる。

5 紡†エクシード

6 アルトレーゼ。

メニュー画面が表示され、こう表記された。

光が晴れると船は幽霊船内で降りられる形となっており、如何にもダンジョンと言った形相を示していた。

地図を表示させると俺達がいる場所が映っているのみで、他の場所は黒く塗りつぶされている。おそらくゲームにありがちな探索すれば表示されるという奴だろう。

リミテッドディメンションウェーブ?

思わず俺が呟くと周りには事態を把握できていない仲間達が各々な反応を示している。

硝子は武器を構えていた。あの閃光の一瞬に武器に手を伸ばしたとか、どこの武人だよ。

しぇりるは無表情でキョロキョロと周囲を見回しただけで特に反応なし。

紡は両手で戦鎌を持って、足腰を震わせ、ケモノ耳を興奮気味に動かしている。

アルトは相変わらず現実逃避を繰り返している。

ぎゃああぁぁーー! 怖いよー! 助けてええぇぇー!?

約一名、周りがドン引きする位驚いている人物が。

というか口癖が無い。本気で怖いのだろう。

幽霊云々で驚かそうと思ったがなんだろう、凄い罪悪感が襲ってくる。

闇影、落ち着け!

絆ちゃん?

絆、ちゃん!?

言い直した闇影に若干思う所はあるが良いだろう。心の中で俺をどう思っていようが気にしない。

それにしても闇影の奴、どんな奴なんだ?

長い事一緒に生活をしていればその人がどんな立場か、ある程度推測する事ができる。

性格云々ではなく、現実でどんな人物なのか、だ。

無論、それを訊ねるのは本人が自分から話す以外ではノーマナーだ。

オンラインゲームでの常識とも言える。

あくまで俺の勝手な予想だが、硝子は旧家みたいな金持ちのお嬢、しぇりるは情報不足で不明、紡は論外、アルトは多分年上。

こんな認識だ。まあゲームでそれを考えるのは無粋か。

闇影、これはゲームだ。幽霊がいても、あくまでゲームなんだ。わかるか?

わかったでござる

目を見て、俺が見上げる形だが落ち着かせる様に話すと闇影は素直に頷いた。

さて、闇影も落ち着いた事だし、事態の把握をしよう。

俺の服の裾をダークシャドウさんが引っ張っているとか、そういう事は気にしない。

リミテッドってなんだ?

限られた、有限。日本だと制限ともいう

つまり直訳すると制限された次元の波ってなるのか

パーティーが表示されたという事は人数が制限されているのではないですか?

ありえるな

オンラインゲームでは度々見られるシステムだ。

インスタントダンジョンとか、パーティークエストとか、そんな感じ。

紡が以前やっていた奴だとパーティーメンバー全員で協力してクリアするって奴か。

お約束になるが、ダンジョン攻略後にボスがいて、そいつを倒すとクリア。

クエスト報酬やボスドロップが手に入るというパターンだ。

一日何回とか、週一回とか制限が付いていたりするんだよな。

なるほど。だから制限された次元の波、なのか。

まあ、このまま立ち止っていてもしょうがない。進んでみるか?

トラップ

闇影、本当大丈夫か?

全員で船内の探索を始めたのは良いが、明らかに怖がっている。

アルトですら闇影を心配する程なのだから相当だろう。

まあ気持ちは分からなくもない。

幽霊船の船内は視界が悪いというのに見える範囲は青白い不気味な色をしている。

しかも木製の壁に触れると冷たくヌルッとしていて、船というよりはおばけ屋敷だ。

どちらかといえば幽霊船とおばけ屋敷は近いのか?

だ、大丈夫でござる

ついて来るだけでも良いからな? 無理に戦って怖い思いするよりは良いだろう

そういう訳にはいかないでござる。自分、パーティーの魔法役でござる故

闇影もなんだかんだで仲間想いなんだな。

柄にもなくちょっと感動しちまったじゃないか。

よし、闇影。お前を攻撃しようとする幽霊は全部俺がなんとかしてやるからな。

そう息巻いて前方を眺めると硝子が先頭で警戒を行なっている。

尚、一番後ろは紡だ。

通路が狭いから広がって戦えそうに無いんだよ。

だから戦力を前と後ろに割いて不測の事態に備えている。

それにしても結構歩いたが、中々モンスターが出てこないな

確かにそうだね。この手のダンジョンは普通もっと敵が一杯沸くイメージがあるね

地図も中々埋まりませんね

まるで迷宮

言われてみれば迷宮という言葉がしっくりくるな。

妙に広い船内。そして狭い通路。

船上戦闘スキルが機能している所を見るに船であるのは事実だろうが。

地図が広くて良く解らないし、石畳だったら地下迷宮と間違えても不思議じゃない。

そうこう雑談しながら進んでいると硝子が前方にある扉に気付いた。

皆さん、扉です。何があるか解りません、気を付けてください

警告に全員が頷き、扉を開けて直に横へ移動する。

いきなり銃で撃たれる訳じゃあるまいし、警戒し過ぎだろう。

何秒か経過しても敵も攻撃もやってこないので頭を出して扉の先を確認する。

食堂?

船の見取り図に関して詳しく知らないが大勢の人間が一同に座れるイスと長いテーブルが置かれていた。当然どれもボロいが、どうにもホラーっぽさを意識している。

硝子、しぇりる、アルトの順番で入り、続いて俺も入ろうとした直後。

バタンッ!

扉が突然閉まった。

開けようと扉に力を込めるが開かない。

おい! 大丈夫か!?

中に向かって叫び、ドンドンと扉を叩く。

大丈夫です! 敵が

フッと硝子の音が消えて以降はどんなに話しても言葉は返ってこない。

モンスター風情に硝子としぇりるが遅れを取るとは思えないが。

おそらくこの罠はプレイヤーを分散させる類の罠だ。

広いダンジョンでパーティーが拡散すれば戦力的に厳しくなる。

入った順番、だろうな。

お兄ちゃん、チャットを送れば良いんじゃない?

さすが紡。だが、ゲーム的に良いのか?

しかし考えとしては有りだ。

メニューカーソルからチャットの欄を表示させて硝子へ会話を送る。

出ないな。

もしかしたらチャット禁止地域とかそういう設定をされているのかもしれない。

にしても幽霊船っての意識し過ぎだろう。

硝子がいるんだ。本人も大丈夫って言っていたし信じよう

数分は扉の前で開くのを待ったが開ける事も開く気配すらなかった。

もしかしたらワープタイプの構造でどこかに飛ばされたのかもしれない。

こうなると俺達がこのまま黙って待っているのは得策じゃなくなるな。

そこ等辺はアルトが硝子としぇりるに話してくれると信じよう。

あいつ、地味にゲームに詳しいからな。多分大丈夫だ。

ともかく別の通路を探してみるか?

わ、わかったでござる

ほい!

怖がっている闇影と喜んでいる紡。

対照的な二人が残ったな。

正直、混ぜるな危険な感じの二人だ。

まあ良い。今は三人と合流を果たす事だけを考えよう。

あっちに通路があるなって、人数が減ったからか暗いな

カンテラは機能しないみたい

ゆ、幽霊の所為でござるか?

いや、そういう風に設定されているんだろ。そうだな

光のルアーが装備されたままの釣竿が目がいった。

使えるか?

実験に取り出して、釣竿を振ってルアーを飛ばす。

おお、見えるな

まあルアーの部分だけが微弱に見えるのでブーメランライトみたいな感じだ。

それにしても飛距離が長いな。

コツンッ!

そんな音と同時に糸を通して光のルアーに何か当った感触が響く。

壁ではなく、骨の様な物体に当たったと思う。

幽霊船でモンスターと言えば当然、アレだよな。

闇影、紡! 何かいる。気を付けろよ?

だ、だ、大丈夫でござる!

う~んちょっと大丈夫じゃ無さそうだが信じるしかない。

リールを巻いてルアーを戻し、シルバーガラスキを取り出す。

一応以前の奴よりランクアップした武器なので信頼はできるはず。

前方からはガタガタと木々と何かをぶつける様な音が響く。

その音の正体も直に判明した。

やはりモンスター。

頭にバンダナを巻いた骸骨パイレーツスケルトンだ。

? なあ、海賊って割には服がなんか変じゃないか?

あたしはわかんない! こういうデザインなんじゃないの~?

そう言われればそれまでなんだが。

パイレーツスケルトンはボロボロになったならず者の衣服、というよりはボロボロな紳士服みたいな、もうちょっと気品を感じる衣類だ。

考え過ぎかもしれないがモンスター名を見て初めてパイレーツスケルトンだと分かった。

おっと!

考えに没頭しているとパイレーツスケルトンは持っていた剣、カトラスを振りかぶってきた。その攻撃を辛うじて避ける事に成功。船上戦闘スキル様々だな。

今はそんな事考えている場合じゃない。

早く、硝子達と合流してダンジョンの仕組みを理解するのが先決だ。

何より紡は船上戦闘スキルが低い。

そうなると前衛である俺が敵を抑えないと話にならないからな。

スライスイング!

初級解体スキルの二番目攻撃スキルだ。

クレーバーが力を込めた一撃に対して、こっちは切り裂く事に重点を置いた攻撃だ。本来は骨の様な物理攻撃と相性の良いスケルトンには効き辛いが、使わないよりはいい。

赤い発光の伴ったスライスイングが命中したパイレーツスケルトンはあっさりと倒れた。

その死体に怪訝な目を向けるが、動かない。

いや、そんなバカな。

客観的に分析すれば俺はアルトの次に弱い。

無論、商売を第一に行動していたアルトを比較対象に持ってくるのはアレだが、パーティー内での俺は解体スキルと釣りという名の食料調達が主だ。

そんな俺の、それも解体武器の攻撃スキルを一発食らった程度で死ぬって何かおかしくないか?

全部倒しおわった~!

思ったより怖くなかったでござる

そうか気の所為か?

まあ良い。

ともかく俺達三人は幽霊船内の探索を始めた。

ギミック

一体なんなんだ、ここは

探索を始めて既に数時間が経過していた。

分かった事といえば地図を多少把握した程度で、船内がどうなっているのかまるで解らない。敵は前や後ろからやってきて、時間の経過と共に増えている。

そして判明した事はパイレーツスケルトンが復活系モンスターである事。

倒しても一定時間経過すると元通りに復活してプレイヤーを襲う。

尚、経験値が入ったのは最初だけで以降は0。

ダメージを受けた場合、回復する手段が乏しい。

一応はシールドエネルギーの範囲で戦えているが、数の増加と共に受けるダメージも増えて来ている。エネルギー減少も時間の問題だろう。

闇影はもう大丈夫っぽいな

さすがに何時間もいれば慣れるでござるよ

がんばったね。闇ちゃん!

紡殿

なんかおかしな二人が友情を深め合っている。

そうなると硝子達はアルトと友情をなんだろう、釈然としない。

いいや、気にしない。

それにしても長い事彷徨っているが、硝子達と遭遇しない。

ワープポイントの関係で出会えない場所にいるのかもしれないが、連絡手段すらない。

これはどういう事だ。

RPGに謎解きダンジョンといえば切っても切り離せない要素なのは確かだが。

なにかあった~?

現在歩いている場所、そして地図を見比べてみる。

良く見ると地図と現実の構造が違う。

地図が間違っている

そうなると地図を全部埋めた所で何の意味もない。

良く考えたら途中何度も扉を潜ったりしている。

仮にワープ機能が備わっていた場合、同じ場所をグルグル回っていても気付かない。

通りで広いと思った。

これはゲーム内ギミックだ。

だが、種さえ解れば攻略の仕方も出てくる。

俺、RPGのこういうギミック解くの好きなんだよな。

MMORPGをそこまで熱心にやらなかったのはMMOはキャラクター育成の方に重点を置かれているから、こういう謎解きとか少ない、というのも理由の一つだ。

紡、ちょっと考える。敵を近付かせないでくれるか?

出発点からの徒歩経路を全て割り出す。

そこから入った扉の数、入った方向、道の長さから逆算していくと。

八箇所ほど行っていない場所がある。

仮に現在地の割り出しが正しいとして、八箇所の一つに一番近いのは。

わかったぞ。こっちだ

そう告げると紡は経験値の入らないパイレーツスケルトンを撃破した所だった。

紡は何か妙に目をキラキラと輝かせている。

こいつ、RPGを後ろで見ているの好きだからな。

というかゲームは全部好きなんだけどな、紡は。

何がわかったのでござるか?

ああ、地図が間違っているなら自分の頭を信じるしかないだろう? だから最初から通った経路を割り出したんだ

そんな事ができるのでござるか?

昔のRPGじゃ当たり前だぞ? まあ紙とかあれば紙使うけど、今は持ってないからな

攻略ホームページとか使えば楽なんだろうが趣味じゃないんだよ。

その所為で謎解きダンジョンに数時間引っかかって困る事多数。結局、紙にダンジョンの形状や出る場所なんかを記載していくうちに覚えた。

まさかこんな所で役に立つとは思っていなかったが。

あった。見た所ホールか?

三人で八箇所の一つを訪れると大広間みたいな場所に到着した。

天井にはシャンデリアが飾られており、青白い部屋が逆に怖さを引き立たせている。

いや、おかしくないか?

なあ、ここって幽霊船って事になっているけど、元は何の船だと思う?

海賊船ではないのでござるか?

それはありえない。海賊船にこんな豪華な場所があるか

だけどモンスターは海賊だよね

そうなんだよな

単に現実でモデルにした船でもあるのか。

あるいは何か謎解きの一つで、それすらもミスリードという可能性。

ともかく辺りを探索して

突然ガタガタと室内が揺れ始め、音を立て始める。

そして頭上を眺めるとシャンデリアが大きく揺れていて落ちてきた。

避けろ!

叫びながら横へ飛ぶ。

あんなトラップ受けたらシールドエネルギーだけじゃ足りない。

爆発にも似た破砕音が鳴り響き、シャンデリアが飛び取る。

若干尖った破片が命中したが受けるダメージは10だの20だの許容範囲内。

木片や木々の粉が舞い上がり良く周りが見えない。

闇影、紡、大丈夫か?

声が返ってこない。

もしかして当ったんじゃないだろうな。

いや、仮に当っても闇影なら即死はありえない。

あれでパーティーメンバー中一番のエネルギー、もといHPの所持者だからな。

ちいっ! また分断トラップか

大広間だった場所は似た別の部屋に変わっており、闇影と紡の姿はない。

怖い、という気持ちはある。

ホラーなんかで怖いという気持ちを長らく忘れていたが、初めてみた映画はこんな気分だった気がする。

長く一緒に行動した仲間とはぐれるのは怖いものなんだな。

なんというのか、小さい頃デパートで一人待っていた記憶を思い出す。

今考えれば特売か何かだったのだろう。

母さんはここで待っていてと一言残すと俺はベンチで待つ事になった。

しかし無用心だよな。子供が誘拐でもされたらどうするんだ。

ともかく俺は母さんを待った。

最初は大人に頼られた事で嬉しくなったりもするんだが、時間と共に心細くなって、辺りには知らない人しかいなくて、怖くなっていく。

自分は捨てられたんじゃないか、みたいなありえない想像をしてな。

そうか、一人っていうのは怖いのか。

いつのまにか硝子がいて、闇影がいて、しぇりる達と一緒に行動する様になっていたから忘れていた。

早く、謎解きして合流しないとな!

俺は頬を両手で二回叩くと気合を入れて歩き出す。

地形としての現在地は解っている。

このゲームは現実と同じく建物の大きさは現実に比例する。つまり一軒家に不自然な空間があった場合、隠し部屋などを外から見つける事だって出来る。

そこで周った範囲から、行っていない場所は。

あっちか

俺は道を急ぐ。

途中パイレーツスケルトンが徒党を組んでいて困った。

硝子や紡達に任せ過ぎだな。これからは戦い方を学んでプレイヤースキルを磨くか。

せっかくあんなに強い奴が周りにいるんだから教えてもらうのもいいな。

今、行くからな

俺は既に解答を導き出された道を走った。

この寂しさを晴らす為に。

守るべき敵、倒すべき敵

ここで最後だ!

一人になった俺は行っていない場所を駆け回ってギミックの謎を解いていた。

ワープ構造を変化させる類の物があって何度か迷ったが、ワープ経路の変更と共に開けた道から行ける場所にそこ船長室』はあった。

俺は武器を構えて硝子がやった方法と同じく扉を蹴り開けて、敵の攻撃に備える。

数時間前はのんびり見ていたが、意外にこの手法は役に立つ。

そういえばVR系のFPSでも使われる手だったか。

攻撃はない。

一度顔を出して、何かいないか確認する。

何もいない。

辺りに気を使いながら部屋へと足を踏み出した。

まさしく船長室って感じか

部屋にはボロボロに腐食した大きな作業机とイスが置かれている。

壁際には本棚が置かれており、その後ろには何かの地図があった。

これまでの道に鍵や特別なアイテムの類は見つけていない。

もちろんパーティーメンバーの誰かが見つけた可能性は高いが、判明していない不確定要素は見付かってから考えれば良い。

それにしても本、か。

これまで幽霊船内で本などが置かれた部屋はなかった。

俺は少し気になって本棚を漁る。

何個か触れると読む前に所有者を選ぶみたいに崩れ落ちた。

システム的に読める物が無いのかもしれないな。

と、最後の本を手に取ると崩れずにページを捲れた。

日記?

触れるだけで壊れてしまいそうな色焼けした本にそう書かれている。

著者はハーベンブルグ・ミーフィファナと高貴っぽい仰々しい名前だ。

おそらく船長の名前とかそういう所だろう。

日本語じゃないあれ? 読める様になった

英語かどうかは解らないが途中から日本語に変わった。

きっと雰囲気重視に作られていて、プレイヤーが読める様に変換するのだろう。

○月×日。私はハーベンブルク。伯爵の地位を承った者である。

私はさるお方よりあの島を任せられた。

あの島は諸外国との国交に必要な、決して失ってはならない大切な島である。

これは私が己を戒める為に書いた書記である。

未来の私よ。これを見る度に自身を戒めて欲しい。

う~んなんともプレイヤーに説明口調な日記だ。

生物災害で有名なあのゲームも書記とか日記とか頻繁に出てくるが、こうマメな人間が多いのはゲーム世界ではお約束なのだろうか。

ともかく確実にダンジョンクリアのキーアイテムだろう。

続きに目を通す。

×月○日。私が島に移り住む事数ヶ月が過ぎた。

実に気の良い人々で島の住人とも私は打ち解け、良好な関係を築けた。

そんな日々を過ごす中、私は不穏な噂を耳にした。

近頃海に海賊が後を絶たないという。

この島は我が国の為に重要な拠点、直に何か手を考えなくては。

△月×日。私は自費で私設軍を設立した。

皆生まれた時より海で過ごし、海で生きてきた者達だ。

魔物との戦いの経験も豊富で、海賊と何度も渡り合った猛者である。

これだけの者達が揃っているのだ、海賊も討伐してみせよう。

◎月▽日。私設軍の生き残りが浜辺に流れ着いた。

私は彼を手厚く保護して回復を待った後、事情を尋ねた。

なんと我が私設軍は化け物の襲撃によって壊滅してしまったのだ。

しかし最後まで解せなかったのは彼が海賊という言葉を使った事だ。

●月◇日。化け物の正体を確かめる為、私自ら航海に出る事にした。

周りは強く反対したが、この島は私の命であり、この海域は私の血である。

私の手が届く範囲で散って行った者達の為に私も何かをしたい。

■月▲日。私は化け物と遭遇し、その正体に気付いた。

彼等は海賊ではない。私が雇った者達だった。

しかしその血肉は腐敗しており、化け物と化していた。

こんな姿で奴隷の様に使われては彼等も無念であったであろう。

この日誌を書いたら私は人の魂を食らうあの化け物に決戦を

ん? なんだ続きがうわっ!

突然、本のページに人の手形の様な赤い跡が沢山付いて読めなくなる。

びっくりした。

いや、ホラーモノではお約束だが結構真剣に読んでいたので驚いた。

それにしても海賊ではなく、化け物、か。

真相に近付くと隠蔽しようとする何かの意思つまり、何か裏がある。

考えていると背後が明るくなった。

振り返ると赤い人魂が、立て掛けてあった地図の辺りに集まっている。

一瞬敵かと身構えるも、敵意という物を感じなかった。

俺はそんな殺気とかを判断する能力はないが、なんとなく、そう感じたんだ。

地図を見ろ?

何故だか人魂がそう伝えようとしている様に見えた。

地図を見ると先程とは違って大きな船の見取り図が描かれている。

ここの正確な地図か?

メニューカーソルから見られる地図とは明らかな齟齬があった。

その地図には番号が振られていて、各所で移動している。

2番は甲板で動き回っており、3が底の方を彷徨っている。

4番が船内の上側を歩き回っていた。

そして5と6が真ん中付近で右と左から交差しようとして6が別方向に行こうとしている。

番号?

確か、この順番だったか。

仮に割り振られている番号が正しいとして、これはパーティーメンバーの所在地か!

そうなると現在全員が別々に行動している事になる。

現時点で孤立して困るのは闇影とアルトだ。

闇影は怖がっていたし、アルトは戦闘能力的に厳しい。

ここから助けに行くには。

チャットウィンドウ?

地図に触れると強制的にチャットウィンドウが表示された。

だが、さっきはチャットを送れなかったはず。

ここからなら送れる?

直に俺はウィンドウから2番を硝子を選択した。

現状一番何をしているのか解らない人物だからだ。

プルルルという着信の様な音が響き、繋がる。

絆さん? 今どこにいえ、それよりも大丈夫ですか?

こっちは大丈夫だ? 硝子は甲板で何をしているんだ?

どうして私のいる場所がくっ!

話している最中に硝子が苦しそうに唸った。

おそらく何かと戦っている。

すみません。現在戦闘中でして

そっちこそ大丈夫なのか?

今はまだ健在ですが、このままでは厳しいかもしれません。敵はボスモンスターでして、私一人では厳しい状況です

ボスかわかった。直に皆をそっちに向かわせる

ありがとうございます。正直心細かったんです

ああ、必ず助けに行く。待っていろ

はい。それまで必ず持ち堪えて見せます!

チャットを切断すると次に連絡を入れたのは6番、アルトだ。

今チャンスを逃せばアルトは紡と合流できなくなってしまう。

絆? 君はどこからチャットを送っているんだい?

それよりもさっき曲がった道に戻れ!

どういう事だい? そっちは一度行ったのだけど

ああ、そっちに紡がいるんだ。今ならまだ間に合う

事情は知らないけれど、今は君を信じるよ。一人になってどうなるかと思っていたんだ

紡と合流したら

俺はアルトに甲板までの道を伝えてから通信を切る。

そして次に闇影に繋いだ。

個人的には一番早く話したかったが状況的に三番目となってしまった。

わああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!

うるせぇ! 静かにしろ! 俺だよ!

うわああぁぁぁん! 絆ちゃんの幽霊がああああぁぁぁぁ!

俺をちゃん付けするな!

落ち着かせるのに随分時間が掛かったが闇影にも甲板までの道を教える。

次はしぇりるだ。

四番、しぇりるはは甲板から一番近い位置にいる。

チャットを繋げると無言だった。

お前初対面の時もソレだったけど、繋がってないか不安になるからやめろよな。

絆だ。道は教える、甲板に向かって欲しい

しぇりるは大丈夫だったか?

そうか、大丈夫だったか

それで道なんだが

自分でも思うんだが、最近しぇりるの言動がそう』だけなのに解る様になっている。

凄く微妙な気分だ。

このままじゃ本当にしぇりる専用の翻訳家にされてしまう。

ともかく一同が甲板に向かって行動を始める。

途中間違えばその都度訂正のチャットを送り、全員が甲板に到着したのを確認した。

さて、俺も上に行かないとな

地図を確認して可能な限り覚える。

そして船長室を後にして立ち去ろうとした時、フッと赤い人魂が消えた。

ゲームのアシストなんだろうが、助けてもらったのは事実だ。

助けてくれてありがとう。

俺は心の中でそう呟いた。

硝子!

船内を自分の庭の様に走り抜けてきた俺は甲板への入り口で叫んだ。

広がる光景は硝子だけでなく、闇影達、全員の無事な姿。

赤い月が船を照らし、ボスステージの形相を示していた。

絆さんご無事ですか?

ああ、怪我一つ無い。そっちは大丈夫だったか?

はい! 皆さんの助けもあってどうにかなりそうです

そしてボスモンスターハーベンブルグと名前が表示された軍服を着た大きな骸骨。

違う!

あの航海日誌を信じるならばハーベンブルグという人物がボスのはずがない。

ボスだけでなく、この船で現れたモンスターパイレーツスケルトンも犠牲者として、何物かに死体を操られているという設定だった場合、ハーベンブルグという伯爵の成れの果てをいくら攻撃した所で意味がない。

おそらく魂を喰らう化け物って奴は別にいる。

どこだ。どこにいる。

ハーベンブルグ伯爵と戦闘中の硝子と紡、闇影、しぇりる。

アルトは後方で指揮を取っていた。

そんな五人を余所に俺は敵の正体を追う。

ハーベンブルグ伯爵元は正しい人物だった様だが今はボロボロの軍服に身を包み、巨大なカトラスを握って海賊紛いな事に手を染めている。

設定上、彼は負けたのだろう。

見えた。

ハーベンブルグ伯爵の影に一瞬ブレがあった。

ヒントがなければ気付かない程度の些細なズレだ。

俺はケルベロススローターを左手に持ち、右手にエネルギーブレイドを持った。

硝子、紡。そいつは敵じゃない!

そう叫びながら左手のケロベロススローターをハーベンブルグ伯爵の影に突き刺す。

するとバチバチと以前聞いた事のある次元の穴が開く音が響いた。

絆さん? それは一体

敵はこっちだ。魂を喰らう化け物ソウルイーター』そうだよな!

逃がさない様にケルベロススローターを刺したまま、一万と充填してビーム光を発したエネルギーブレイドに力を込めて影へ突き入れる。

水が蒸発する様な音を発しながら甲板の床に消えるエネルギーブレイドの刃。

ガランガランと崩れるハーベンブルグ伯爵の亡骸。

合わせて俺は後方へ飛ぶ。

そして影から飛び出した物体本物のボスモンスターソウルイーター。

白く凶悪そうな顔付き、赤い眼、大きな口と牙を持った醜い化け物。

倒すべき敵は、お前だ

ソウルイーターはおそらくハーベンブルグ伯爵を囮に使って自身はダメージを受けずに戦うという、実は本体は別にいるタイプのボスだ。

最近では少ないが昔のRPGでは度々見られたタイプでもある。

有名なタイムスリップRPGではラストボスが真ん中の不気味な本体っぽい生物ではなく、左側にいる回復を担当しているオプションだったりする。

プレイしたのはリメイク版だったが、攻略サイトなどを見ない俺は絶句した。

なんせ本体を倒したら回復のオプションが偽者の本体を復活させたんだからな。

つまりこのソウルイーターというボスはそれと同じでいくらハーベンブルグ伯爵を倒した所で全く意味のないボス、という事になる。

種が解ればどうって事はない。皆、見ての通りボスはそっちだ

なるほど。わかりました

影とか見てたけど全然気付かなかったよ~

下に向けて銛を撃つのは得意

戦い方を理解した我等が戦力は納得の顔をして頷き、臨戦態勢を取った。

そして残りの二人は。

ぎゃあああ! 本物のお化けが出たああああ!

もうそれ、いいから

ぼ、僕は敵の位置をちゅ、注意深く探る事にするよ

なんでドモってるんだよ!

こいつ等本当にブレないよな。

いや、まあ反応的には美味しい役回りなんだろうけどさ。あっちの醜いソウルイーターを眺めても普通のモンスターと対峙した様な顔をしている三人よりは。

と、ともかく! あいつを倒すぞ!

硝子の返事と共にソウルイーターへの猛攻が始まった。

リミテッドディメンションウェーブ-討伐-

ボスが二匹いるのは結構しんどいな

俺達は二手に別れてハーベンブルグ伯爵とソウルイーター、二匹同時に対峙していた。

どちらもボスモンスターの名に相応しい強さを保持しており、一筋縄とはいかない。

まずハーベンブルグ伯爵は復活型モンスターでいくら攻撃しても直に復活してくる。

何よりも巨大なカトラスの威力が高く、攻撃を避けるのも難しい。

そうなると現在のパーティーメンバーでは硝子か紡が相手にしなければ話にならない。

しかしハーベンブルグ伯爵はあくまで囮だ。本当に倒さなければいけないのはソウルイーターであって、ハーベンブルグ伯爵ではない。

そしてソウルイーターも相応の強さを持っている。

まずハーベンブルグ伯爵と違い獣の様な動きをするので人型モンスターと同様の攻撃方法ではこちらが被害を受けてしまう。

けれど同時にハーベンブルグ伯爵がいるので獣型のソウルイーター、人型のハーベンブルグ伯爵とタイプの違う二匹を相手にする必要がある。

更にソウルイーターは隙をちょっとでも見せると次元の穴に隠れる。

隠れた場合、アルトが真剣に目を凝らし場所を探知して追撃を掛けるが、その間もハーベンブルグ伯爵が攻撃してくる。

地味に嫌な連携だ。

硝子の注意を受けて背後にソウルイーターが次元の穴を通して移動しているのに気付いた。

これは避けられない。

避けられないなら、無意味に攻撃を受けるのだけは防ぐ。

おらっ!

ケロベロススローターをソウルイーターに向けて振るう。

ソウルイーターの攻撃と俺の攻撃が交差する。

所謂、肉を切らせて骨を断つ。

あるいは捨て身の一撃。

受けるダメージはケルベロスと比べると控えめな670ダメージ。

一応ギリギリシールドエネルギーの範囲なのでマイナスにはなっていない。

輪舞二ノ型・吹雪!

俺の攻撃に合わせて硝子はスキルを使う。

桜の花びらが吹雪くような演出が発生し二つの扇子でソウルイーターを切り裂いた。

お怪我は大丈夫ですか?

ああ、硝子の言い方だと傷は浅い。まだ行ける!

ソウルイーターへ武器を向けながら状況報告をしながら動く。

紡さんと闇子さんにはあちらを任せていますが大丈夫でしょうか

紡は対人の方が得意だからな。闇影も幽霊よりは骸骨の方が怖くないだろう

そうですね。絆さん

助けに来てくれてありがとうございます

今更何を言うのかと思えば感謝の言葉か。

さっきも聞いたが硝子はこういう所がしっかりしている。

感謝の言葉は必ず告げるし、悪い事と思えば謝る。

それを言い出したら俺だって沢山感謝の言葉を言わなければならない。

男って奴はそういうのが恥ずかしかったりするんだけどな。

嬉しかったんです

俺もだ。あいつを倒したら、聞いてほしい事があるんだが良いか?

はい。必ず!

若干死亡フラグを立てた様な気がするが気の所為だ。うん。

そしてソウルイーターへと飛ぶ硝子の後に続いて不意を突く。

本当、これが終わったら戦い方の基本とかを教えてもらおう。

しぇりるさん。行けますか?

ん。ボマーランサー

もはや固定砲台と化したしぇりるがアルトを守りながら頷く。

アルト、悪いがお前少し邪魔。

いや、そもそもアルトの本領は戦闘ではなく、商売だとは思うが。

銛スキルを受けたソウルイーターは少しよろめく。

その隙に硝子と共に攻撃を繰り返す。

さすがにリミテッドディメンションウェーブなだけにケルベロス程強くはない。

そしてハーベンブルグ伯爵を受け持っている二人に視線を向ける。

ホーリーバースト!

ええええぇぇぇぇ!?

闇影が光魔法使っている!

キャラがブレてるぞ。

お前はドレインバカだろうが!

ま、まあ闇影はそこ等辺を考えられない位骸骨船長が怖いのかもしれないが。

にしても、光魔法使えるとか初耳だぞ。

俺は現実から目を逸らす、もとい現実に戻ってくる為にソウルイーターに視線を戻す。紡? 闇影の一件で完全に俺の心から吹っ飛んでいった。

多分大丈夫だから問題ないさ。

視線をソウルイーターに戻すと硝子が俺を難しい表情で見ていた。

絆さん。先程使っていた剣を貸して頂けませんか?

エネルギーブレイドを? 何をするつもりだ

こちらから与えるダメージがあまり効いていません。おそらくは属性的問題があるのかと私は考えております

確かに、随分と攻撃を繰り返しているがダメージが入っている様には見えない。名称がソウルイーターだからな、霊属性みたいな無属性攻撃に抵抗があるのかもしれない。

その点、最初の一撃は妙に効いた気がする。

影から引き摺りだした挙句、苦しそうにしていたからな。

わかった。でも気を付けろよ。外したら終わりだ

承知しました。必ず当てて見せます

柄だけの剣、エネルギーブレイドを投げ渡すと硝子はあっさりと手に取った。

片方の扇子を腰帯に差すとさながら短剣と剣を持った剣士の様に扇子とエネルギーブレイドを構えてソウルイーターを睨みつける。

そして脳を冷たくするかの如く呟く。

五万充填

おいおい、入れ過ぎじゃないか?

大丈夫です。必ず当てて見せますくっ!

剣を向けた直後、ソウルイーターはまるでこちらの攻撃を読み取った様に回避行動にシフトした。

おそらく威力の高い攻撃に反応するAIでも積まれているのだろう。

現代のプログラムなら可能だろうが嫌な行動パターンだ。

硝子、こちらで誘き出して見せる。安易に振るな。最高の状況で最高の一撃を与えるぞ

はい! 信じます

こちらの動きを読み取ってしぇりるはソウルイーターの影をボマーランサーで当てようとしているが、回避行動にシフトしたソウルイーターは泳ぐ様に次元の穴を移動して簡単には当たらない。

その間、俺達の後ろでは紡と闇影が死闘を繰り広げている。

早くしなければならないが。

ああ、クソッ! ちょろちょろと魚みたいに逃げ回りやがって?

次元の穴。

黒い影をまるで泳ぐかの様に移動するソウルイーターを例えての言葉だったが、凄く的を射ている。よくよく見てみれば獣っぽいが大きな魚類にも見えるソウルイーター。

まさか。

仮に外れていてもヘイト&ルアーⅡは敵のヘイトを稼ぐ事ができる。

俺を狙って攻撃してきた所を硝子のプレイヤースキルなら当てられるはず。

燃えるじゃないか。

俺はステータス欄、スキル欄などを呼び出して準備を始める。

エネルギー/57630。

マナ/12070。

セリン/68780。

スキル/エネルギー生産力ⅩⅡ。

マナ生産力Ⅸ。

フィッシングマスタリーⅧ。

ヘイト&ルアーⅡ。

解体マスタリーⅤ。

クレーバーⅤ。

スライスイングⅡ。

高速解体Ⅳ。

船上戦闘Ⅴ。

未取得スキル/エネルギー生産ⅩⅢ、マナ生産力Ⅹ、フィッシングマスタリーⅨ、舵マスタリーⅠ、夜目Ⅰ、一本釣りⅠ、都市歩行術Ⅰ。

一本釣りⅠ。

釣竿を使った補助スキル。

釣りによって魚やモンスターを釣り上げる為のスキル。

一回の使用に300のエネルギーを消費する。

取得に必要なマナ1000。

取得条件、釣竿によって釣り上げたモンスターが1000匹を超える。

ランクアップ条件、釣竿によって釣り上げたモンスターが5000匹を超える。

なんとも都合良く欲しいスキルが未取得スキルに入っている。

スキル説明から、おそらく巨大ニシンや巨大イカの様な大物を釣り上げる為のスキルだ。

条件はモンスターキラーフィッシュみたいな奴か。

俺も随分と釣りを続けているからな。何匹魚を釣ったかなんて覚えていない。

いつのまにか追加されたのだろう。

これがあれば巨大イカの時みたいにしぇりるに手伝ってもらう必要がなくなるかもしれない。

だが、今はソウルイーター、お前を釣る為に使わせてもらおう。

青色の発光と共に光のルアーをソウルイーターの影へ投げ込む。

戦闘では硝子にも、紡にも、しぇりるにも遅れを取るがこれだけは自信がある。

何よりイカ釣りで地道に上げたフィッシングマスタリーⅧの力を受けてみろ。

ランク8だぜ、8。

しかも俺の媒介石はフィッシングマスタリーを二段階上昇させる。

事実上ランクⅩだ。

ここから出されるコントロールは釣りマンガの主人公にすら匹敵する程だ。

よしっ! 引っかかった!

フィッシングマスタリーは釣竿を使った全ての行動に補正を掛けるスキルだ。

ランクⅧという事は80%。現実的ではない事は十分承知だが、やろうと思えば投げた途中でルアーの方向すら曲げられる。

まあそれが釣りで何の役に立つのかは激しく謎だが。

ともかくソウルイーターに掛かったヘイトを繋げたまま叫ぶ。

一本釣り!

リールを巻き、青い光が釣竿全体を包み込んで固定モーションで持ち上げる。

次元の穴からソウルイーターがマグロの一本釣りの如く姿を現し、甲板に打ち上げられる。

甲板でスタン状態にも似たピチピチと跳ねるソウルイーター。

やはり幽霊に属する魚類系モンスターだったのか。

そんな事よりも今は!

硝子。今だ!

行きます!

無防備になっているソウルイーターに硝子は残像を発しながら高速で接近し、片方の扇子で上顎骨を持ち上げ、もう片方の強い出力を発したエネルギーブレイドを口内へと刺し込んだ。

まるで硝子がソウルイーターに喰われている様にも見える姿のまま奥へ奥へ突き進んで行きエネルギーブレイドの出力を発する音だけが聞こえてくる。

そして何秒、何分か経った頃まずハーベンブルグ伯爵がカランと音を発てて崩れた。

続いてソウルイーターは砂が崩れるかの様に風化して風に飛ばされていく。

勝ったのか?

少々裏技臭のする倒し方だった気もするがビーム部分がなくなったいつも通り柄だけのエネルギーブレイドを大事そうに握っている硝子が風化の中から現れる。

なんというのか、毎回かっこよすぎだ。

ライトノベルとかの戦うヒロインって感じ。

ん? そうなると俺は冴えない主人公ポジションか?

個人的には一緒に戦う同等の仲間の方が良いんだが、正直ポジション的にヘタレ主人公だよなぁこれからはもう少し戦いも学ぼう。うん。

それにしてもソウルイーターは解体できないのか。

実は期待していた。

ほら、名称的に鎌みたいな武器になりそうじゃないか。紡がソウルイーターから武器を作ったら戦力的に凄そうと思ったんだが、解体は無いらしい。

リミテットディメンションウェーブ討伐!

ほんの数週間前に眺めたウィンドウが表示される。

前回とは違い、俺を含めたパーティーメンバー六人だけだが。

総合評価一位、絆†エクシード。

二位、函庭硝子。

三位、紡†エクシード

四位、しぇりる。

五位、闇影。

六位、アルトレーゼ。

驚いた。まさか俺が総合一位だとは。

他に表示される評価基準を眺めると理由はなんとなく理解できる。

ダンジョン攻略率。

蓄積ダメージ。

被ダメージ。

討伐数。

ボスダメージ。

マップ解析率。

施設使用率。

確かにこの基準値で言えば俺は一位かもな。

ダンジョン攻略はイベント回収率の事か?

蓄積ダメージは、まあ一人になった時に雑魚モンスターを程々。

被ダメージは前回よりは受けていない。

討伐数、これは微妙。

ボスダメージ、こっちはケルベロススローターとエネルギーブレイドで結構稼いだ。

マップ解析率、全部ではないがほとんど周った。

施設使用率、全部使った。

大抵のオンラインゲームではボスダメージの基準が一番高いもんだが、設定値を解析できる程プレイ経験がある訳でもないし、こうなった理由があるのだろう。

おや、獲得アイテムの欄がある。

通常のディメンションウェーブと違ってルーレットは無いんだな。

カルミラ島獲得。

なんだ? 島?

アイテムと呼ぶには仰々しい物の獲得メッセージだ。

確認にアイテム欄を眺めるも島なる道具が入っていない。

あれか、ハーベンブルグ伯爵の日記で書かれていた島の事か。

確か国交がなんとか。

そんな思考を遮る様に足元が揺れ始めた。

RPGお約束、ボスを倒したらダンジョンが崩壊するって奴か?

皆、船まで逃げるぞ?

振り返ると幽霊船が目に見える速度で灰に変わっていくのが見える。

つまり逃げる余裕すらなく、足元が灰に変わった。

きゃあああああぁぁぁぁ!

ござ、ぎゃあああああぁぁぁぁ!

当然ながら足元がなくなった俺達は海へと落下を始めた。

あれ? なんか声の数がおかしくないか?

落下中に硝子が手を伸ばしてきた。

その手を咄嗟に掴む。

赤から青に戻っていく空の月。

無常にも広がっていく海水の冷たい水温。

強く握られた手の感触といつまでも無くならない泡沫の音。

深く、深く。

まるで暗闇の中へと誘う海水がしだいに俺の意識を奪っていった。

開拓者の七つ道具

目蓋を貫く陽光を受けて俺の睡魔は薄れ、下半身が冷たい事に気付いた。

冷たいのは単純に海水で濡れているからだ。

身体の半分程が浜辺の海水に浸っている。

低体温症とかにならないのはゲームだからだよな。

取り敢えず立ち上がり状況を確かめる。

エネルギー/61630。

マナ/14070。

エネルギーが増えている所を見るに溺れた事に対する減少はないみたいだ。

それにしてもここはどこだろうか。

見た所浜辺見上げると南洋の植物っぽい森が広がっている。

見知らぬ浜辺と森という条件で思う所はあるが、一度カーソルメーニューからチャットウィンドウを表示させる。

その中のパーティーウインドウから硝子を。

パーティー欄が空白になっている。

つまりパーティーを結成していない、一人の状態という事だ。

パーティー自体は特定状態以外を除けばいつだって抜けられる。

しかし俺は抜けた覚えがないし、一度にあれだけのメンバーが抜けるとも思えない。

何より硝子と紡がいるんだ。

硝子は何も言わずに抜ける奴じゃないし、紡は血の繋がった兄弟だからな。

他の奴にしたって勝手に抜けるとは思えない。

ともかくチャットを送ってみよう。

今度はフレンドリストを表示させて硝子にチャットを送った。

現在あなたの電源が入っていないか電波が使われていません。

俺の電源って何!? というか携帯電話かよ。

システムアナウンスに文句を言っていてもしょうがない。

訳もわからないまま、俺はフレンド登録されている全員に連絡を入れる。

無論、硝子達だけでなくロミナや他知人もだ。

その全てがこの訳のわからないシステムアナウンスが流れる。

状況から連絡できない何かが起こっている、と考えるのが妥当か。

幽霊船から落ちたのは俺だけじゃない。

もしかしたら俺と同じく浜辺に流れ着いた奴がいるかもしれないな。

俺は周囲を見回すも見える範囲には誰もいない。

カーソルメニューにある地図を表示させてみる。

現在地は比較的大きな島の南側にある浜辺だ。

マップ名称はカルミラ島。

この名前には聞き覚えがあるぞ。

確かソウルイーターを倒した報酬で手に入った島だ。

確信はできないがハーベンブルグ伯爵が守ろうとしていた島である可能性も高い。

単純にリミテッドディメンションウェーブの報酬とも取れるが。

ともかく皆を探そう。

俺は当ても無く浜辺を歩き始めた。

結果だけを述べるなら浜辺に誰かが流れ着いた痕跡は見つからなかった。

定期的にチャットを送っているが相変わらず壊れたみたいに変なアナウンスが流れるのみで状況は好転しない。

本格的に認めなければ行けない状況になってきたかもしれないな。

おそらく俺は漂流した。

島内部を探索していないのでまだ結論は避けるがカルミラ島は無人島だ。

俺だけなのは何かしらのイベントによる可能性が考えられる。

例えば幽霊船であの本や人魂イベントをこなしたのは俺だけだ。

仮にそういった条件に当て嵌まったのが理由としてこの無人島で何を求められるのか。

この手のゲームに無駄なフラグや条件はあまり無い。

そう考えると俺一人でカルミラ島に漂流した理由があるはずだ。

なんかこういうゲームあったよな。

小学生の主人公が船から落ちたら無人島でそこでサバイバルをしながら生還を模索する。

漂流モノのお約束だが、まさか俺が実践する事になろうとは。

幸い、その手の主人公とは違って俺は装備に恵まれている。

例えばアイテムだ。

食料に関してはイカが無駄にあるのでしばらくは持つだろう。

何より料理スキルに必要な機材を所持している。

海があるので釣りで稼ぐというのも良いかもしれない。

重要なのはどれだけの期間をここで過ごす事になるか、だ。

お!

アイテム欄を眺めていたら帰路ノ写本があった。ついつい状況に流されてしまったがこれはゲーム、帰還アイテムを使えば良いんじゃないか。

俺は帰路ノ写本を使った。

波の音。カモメの鳴き声。白い砂浜。

跳躍エフィクトの後、最初に流れ着いたカルミラ島の浜辺だった。

きょ、強制セーブポイント。

だ、出せええぇぇー!

海に向かって叫んだ。

カモメの声が返ってきただけだった。

しばらくここで生活する事になりそうだな。

そうなると硝子達と合流した後を考えないといけない。

あいつ等の性格からいって多少エネルギーに問題があっても合流さえすればどうにかなると思う。だけどエネルギーに差が付き過ぎるのも個人的に厳しい物がある。

最悪アイテム欄に入っている木の船で脱出も考える必要がありそうだな。

ともかく今は島を調べる所から始めよう。

合流した時に多少役立てれば御の字だしな。

そう決めて島内部へ歩き出す。

右手にはケルベロススローター。

エネルギーブレイドは持っていなかった。硝子に渡したままだったからな。

まあエネルギーブレイドなんてボス戦位でしか使わないだろうが。

カルミラ島はパッと見た感じ、南国という形相を示している。

高い経費使って作られているのか虫の声とか、南国風の鳥とかが飛んでいて、気を許すとゲームである事を忘れそうだから逆に凄い。

それにしても島か魚、何が釣れるんだろう。

って、こんな状況で何を考えているんだ。俺って奴は。

今は現状を把握する事。

幽霊船でもそうだが、一人になるのは久々だな。

特に第一都市と同じ太陽光がある場所だと最初の頃を思い出す。

あの頃はあの頃で楽しかったな。

いや、パーティーで冒険するのも凄く楽しいけどさ。

そんな考え事をしていると寂れた農村の様な場所が見えてきた。

農村というか廃墟か?

崩れかけた納屋。生い茂った草花。人気の無い雰囲気。

何十年も前に人が住んでいた様な痕跡、みたいな場所だ。

なんだあれ?

村の中心に不自然な位浮いた物体が見えた。

宝石が装飾された大きな箱でどう見ても場違いな形相を示している。

個人的にミミックなどの、トラップモンスターが頭を過ぎる。

空けるべきか、無視するべきか。

仮にモンスターだった場合、一人で勝てるだろうか。

こういう時に一人だと困る。

仲間が居ればなんだかんだで開けると思う。

しかし一人だと無理は利かないし、不安にもなる。

うん、開けよう。

宝箱に近付いて異常が無いか確認した後、開いてみる。

もちろん開いた瞬間飛び退く。

矢や毒ガスは宝箱のお約束トラップだからな。

何も起こらない。

開きっぱなしになっている宝箱に覗き込んで見るとアイテムが入っていた。

小さな箱だ。

宝箱の中に小箱とかマトリョーシカの派生か。

さすがに小箱の中に箱はなかったので安心だ。

アイテム名は開拓者の七つ道具。

凄く嫌な予感がするんだが。

こう、俺が一人でここにいる事がシステム的な影響を受けている様な、そんな気分だ。

うわっ、捨てようと思ったらアイテム欄に勝手に収納された。

呪いの道具かよ。

いや、まあ好きなシチュエーションだけどさ。

今の俺には仲間がいるからのんびり開拓生活をしている余裕はない。

ちなみに、これがパーティー結成前だったら喜んでいた所だ。

そもそも一人?

なんでパーティーメンバーが除外されているんだ。

開拓イベントにしたってパーティー全員とか、プレイヤー全員参加じゃないのかよ。

思う所はあるが、我慢しよう。

取り敢えず俺は開拓者の七つ道具とやらを使ってみる。

すると変幻自在アイテムの様で、変化できる項目が現れた。

クワ。

カマ。

オノ。

ハンマー。

ドリル。

ロープ。

釣竿。

ドリル!

一つだけ浮いている!

なんだこれ。ツルハシじゃダメだったのか?

やばい、凄い興奮してきた。

こんな姿は硝子には見せられないな。

まあ紡にはリアルで毎日見られている気もするけどさ。

何を隠そう。俺は王国生活ゲームで姉さんと紡がゲーム内時間5年で飽きた所を1000年超えしている男だ。

無意味に家系図が進み、最初に作ったキャラクターの血筋すら見えなくなる位やりこんだが、異常者の様に扱われたのはどうでも良い事か。ともあれ同様の理由で開拓物語を無限時空に入ってから200年突破も達成した事がある。

少し興奮し過ぎだ。

手始めにドリルを持ってみる。

先端が螺旋状になっているハンドドリルだ。

取っ手を引くと想像通りギュイイインというモーター音を立てて回転した。

やっぱり男はドリルだよな。

今時スーパーロボットでもドリルを使っている機体なんか見ないけどさ。

と、ともかく今直ぐドリルを試してみよう。

俺は硝子達の事など忘れ、一時の快楽に身を任せてドリル片手に走り出した。

俺が正気を取り戻したのは十分も経ってからだったのはどうでも良い補足か。

開拓開始

決めた

俺がこの島、カルミラ島に漂流してからしばしの時が流れた。

最初こそ俺は開拓者の七つ道具なる救済アイテムを無視してドリルはちょこっとはしゃいだが無視して、島からの脱出を模索した。

まず舵スキルを取得して木の船で南の砂浜から海へ出たのだが北側に出た。

昔のRPGにありがちな南を越えたら北、みたいな状況だ。

船が小さいから戻されたのか、単純にこの島がそういう仕組みなのかは解らない。

それから色々と模索した訳だが結局、島からの脱出には至っていない。

ともかく俺は現在、カルミラ島に閉じ込められている。

だが、俺には心強い仲間がいる。

硝子達が俺を見付けてくれる可能性に賭けた訳だがついに一週間が経過した。

もちろん信じていない訳ではない。

硝子との付き合いは一月程だが、誰かを裏切る様なタイプじゃない。

今頃俺を探していると思うが、この島がそう簡単に見つかるとは思えない。

現に一週間が経過している訳だしな。

のんびりと釣りを繰り返し、釣りスキルと料理スキルを上げまくった。

ついでに一日中イカと釣れた魚を元素変換していた。

そこで俺は硝子達の救出が一週間以上遅れたら決めていた事がある。

それは。

エネルギー/78630。

マナ/22070。

フィッシングマスタリーⅨ。

クッキングマスタリーⅡ。

元素変換Ⅱ。

マナ/27070。

この様に島以外で必要無いスキルを未取得に変更してマナに変換する。

これによって取得できるスキルとエネルギー生産量が増えた。

船上戦闘スキルだけな気もするが。

元々解体武器と釣りだったので開拓に近いスキルだったのが不幸中の幸いか。

ともあれ船上戦闘はⅤだったので削れば相応のエネルギーを他に回せる。

助けが来るまで生き延びるもとい開拓生活を実践しようと決断した。

実は俺って人間はこういうのが大好きなんだ!

皆には悪いがタイムリミットは過ぎた。

クククッこの島を骨の髄までしゃぶり尽くしてくれるわ。

そう決断してまず俺が手を出したのはカマ。

紡が使っていた武器用の装備ではなく、釣竿と同じ生活系装備だ。

要するに生え過ぎて邪魔な雑草を撤去する。

性能は救済アイテムだけに良くも悪くもない、微妙なラインだが、アイテム欄にレベルの項目が存在する。

なんでも開拓者の七つ道具はこの島でしか使えないらしい。

つまりアイテムのランクはカルミラ島限定でレベル制に変化している。

こういうの燃えるよな。

よし皆、俺の開拓者の七つ道具がレベルMAXになるのが先か、皆が助けにくるのが先か勝負しよう。とかアホな事を脳内で語りつつカマで雑草を切断していく。

別のゲームでも思ったけど、こんな処理の仕方じゃ雑草生えてきて当たり前だよな

しかし手で引っ張っても効率が悪いし、一応は根の部分まで無くなっている。

ここ等辺はゲーム世界による不思議空間という事で我慢だ。

それにしても現実の墓参りとかで毎年掃除を手伝わされるが、ゲーム内の身体は疲労が無くて良いな。

カマをいくら振り回した所で疲れないのだから現実の何倍もの速度で切れる。

だが、あまり雑草ばかりに目を向けるのも下策だ。

一日は24時間しかない。

更に睡魔も襲ってくるので事実上無理をして18時間位しか開拓に時間を注ぎ込む事はできない。そうなってくると俺の取れる行動にも限界が出てくる。

さすがに食事の時間などもある訳だから18時間全部は使えない。

この手の思考はすると何もできなくなるからな。

今は目に付いた範囲で開拓作業を繰り返し、効率的な方法を見つけたらそっちにシフトしていくという方針で固めよう。

次にクワだ。

雑草をカマで切り取った限られた土地のみ耕す事ができる極めて限定的な畑。

いや、他意はないが。

ともあれ疲労はないがマスタリースキルを所持していないので時間を掛けて耕す。

どこまで再現しているかは知らないが土の匂いがした。

カマの時は草の匂いがしたのでシステム自体は流用かもな。

種がない

畑を耕し終わってから気付いた。

実にバカバカしい状況だ。気付けよ、俺。

開拓者の七つ道具にあるクワの項目から種を選択できた。

一種類しかないが。

取り敢えずこれを植えておくか。

種を手頃な区間に分けて植えて、廃墟近くにあった井戸から拾ってきたバケツに入れた水を掛ける。

まあ後は毎日雑草をカマで処理しつつ実が生るのを待つか。

何日必要かは知らないが、一月とかはさすがにないだろう。

でなければ農業系スキルが死んでいる事になる。

さて手始めに行った作業が四時間で終了してしまった。

オノも戦闘用の斧ではなく伐採用の斧だ。

この島は森かという程木々が生い茂っているが無闇に伐り倒して良いのだろうか。

同じ理由でハンマーは破壊武器の項目に属する。

元々は解体武器の派生武器なのだがモンスターの部位や破壊可能オブジェクトを破壊して弱点を作ったり、邪魔な物を撤去する為に存在する。

性能と効果、パーティー構成の関係で解体武器のままだったのだが、開拓者の七つ道具の項目に含まれている所を見るに使う局面があるんだろうな。

尚、調べてみた所ドリルも破壊武器の項目に属している。

一週間前、はしゃぎ過ぎてスキルが一つ出たからな。

取得出来なかったが。

スキル項目欄に赤い線で破壊武器から繋がっている。なので、おそらくはディメンションウェーブ第二波などで開放される武器なのではないだろうか。

以前アルトに海路は本来のルートとは違うとかデタラメを言った覚えがあるが、もしかして当たりなんじゃないか?

ハーベンブルグ伯爵の日記にも国交とかなんとか出ていた。

漂流している俺に調べる術はないが、この島が何かを握っているのは予想できる。

思考を戻そう。

ドリルは壁や岩、穴などを掘る事ができる。

そしてカルミラ島にはドリルで道を作る必要がありそうな場所が随所に見られる。

おそらく本来であればドリルが武器として存在する頃に訪れる場所なのだろう。

ともかくオノ、ハンマー、ドリルは後回しだ。

今は生活基盤もとい、運営できる状況を作りたい。

そうなるとやはり、カマで雑草を撤去して、クワで耕し種を植えまくるのが基本か。

ちなみに釣竿とロープに関しては現状必要用途を見つけていない。

ロープは移動箇所が存在する事が予想できるが、釣竿はなんだろうか。

食べ物? しかし畑に実が生れば生きてはいけるはず。

森の中に肉になりそうな逃げ足だけが特徴の野生生物がいたのでそっちでも良い。

そんな中で釣竿がどうして必須の道具に入っているんだ。

いや、個人的には嬉しいが。

性能は現在所持している釣竿には劣るが、安い餌が無限に出てくる。

無論、開拓者の七つ道具の釣竿でしか使えない餌だ。

その影響で釣りには困っていない。

まあ開拓していけばわかってくるか。

ともあれ、今空いている土地を耕したらオノで木々を伐り倒すか。

もちろん一定の区間を作ってだが。

それが終わったらドリルで目に見えて行かなければならない道を作るとしよう。

俺は島内部を見上げる。

屋敷跡とも見える、比較的大きな建物が見えた。

伯爵の置き土産

あれから二日が経った。

空いている土地の半分を畑に変えた所でドリルを片手に岩石の前に立っている。

岩石は一言でいうなら巨大だ。

俺の身長の三倍程で道を塞ぐ様に置かれている。

不自然に置かれているがディメンションウェーブの衝撃で、島内部から転がってきたとかそういう設定だったりするのかもしれない。

ともあれハンマーでコレを壊すのは少々難しいだろう。

ドリ

叫びそうになったのを途中で止め、ドリルの取っ手を引っ張る。

するとモーター音を立てて回転を始めた。

同時にシールドエネルギーが700から699に変化する。

ドリルはMPを消費して使用する道具らしく、エネルギーを消費してしまう。

開拓作業にエネルギーを使い過ぎるのは危険なので地道に岩石を破壊する。

要するに毎日こまめにドリルを岩石に当ててダメージを与えている。

少しずつ亀裂が入ってきているので後少しだ。

スキルが使えるようになればなぁ

おそらくはマスタリースキルだとは思うが取得不可では厳しい。

まあ元々第四都市を見つけようって時に海へ向かったのが悪いのかもしれないが。

ドリルが石を破壊した時と同じ感触が手元にやってきた。

すると岩石がピキピキと音を立てて半分に割れた。

もう少し砕いて行って撤去する感じを想像していたんだが、まあ良いか。

道の両脇に割れた岩石を門代わりにしながら先へと進む。

文字通り島の中心へと進んでいるので微弱に斜面だ。

山の中腹よりも少し前の方に屋敷跡があるのでそんなに時間は掛からないはず。

よしよし見えて来た、見えて来た。

屋敷は村と同じく随分と風化していて、ハーベンブルグ伯爵が設定上どの時代にここで暮らしていたのかを物語っている。

これもミスリードだろうか?

ソウルイーターが何十年も前に存在していたという事はディメンションウェーブ自体がここ最近突然現れた存在ではない、という事になるのだが。

いや、そもそも世界観云々を述べたらディメンションウェーブが第一回なのか、第三十回なのかは具体的に明記されていない。

ここ等辺もプレイヤーが世界の謎に近付いていくストーリー性かもしれないな。

さて、ここで立ち止まっていてもしょうがない。

俺は古くなった屋敷の扉を開いた。

埃一つ無い手擦り。破損していない床。風化すらも感じられない。

驚いた事に屋敷の内装は綺麗なままだった。

どういう事だ?

すると半透明の物体がゆらゆらと降りてくる。

どう見ても幽霊です。ありがとうございました。

幽霊は二人居て、片方は軍服に身を包んだ男性、おそらくハーベンブルグ伯爵。

もう片方は女性伯爵夫人とかか?

ハーベンブルグ伯爵の幽霊は俺に気が付くと微笑んで喋る。

良くぞ化け物を倒してくれた。これで私も楽になれる。恩人よ、島は任せたぞ』

訳も解らず唖然としていると成仏したのか二つの幽霊は天へと消えて逝く。

そして霧が覚める様に辺りの景色に変化が起こった。

直前まで見えていた屋敷が無くなっており、かろうじて支柱の跡が残るのみ。

そしてその中心に大きな箱が置かれていた。

近付くと箱には四つのボタンが付いている。

肉、木の実、魚、人参。

食物? あれか、選択式で中身が対応したアイテムに変化するとかそういう奴か。

一応危険が無いか調べ、開けられるか確認を取ったが開けられない。当然ながらボタンが鍵を握っていそうだ。

まあこの中だったら一つしかないよな

ルアーとか、性能の高い釣竿、あるいは釣り針などだろうか。

きっと状況的にハーベンブルグ伯爵の贈り物だからな。期待して良いだろう。

俺は迷わず魚のボタンを押した。

ペーン!』

魚のボタンを押すと箱から何かが叫びながら飛び出してきた。

ビックリさせんな。

くそっ、伯爵め、何を残していたかと思ったらトラップかよ。

箱から出てきたのはデフォルメされたペンギンの様な形をしたモンスターだ。

頭にサンタの帽子みたいな物を付けている。

大きさは俺の胸位の高さ。

デカイ? とも思うが良く考えたら俺は幼女だった。無難な大きさか。

俺は迷わずケルベロススローターを持つとモンスターと対峙する。

ペックルはモンスターじゃないペン

しゃべった!?

今まで倒してきたモンスターは人語を解した事が無かった。

というかしゃべったら嫌だ。倒せないじゃないか。

ペ、ペックル?

ペンギンとコルポックルが力を合わせてーーペックルになったんだペン

聞いてもいないのにやや説明口調で語りを始めるペックル。

ペンギンとコルポックルでペックル?

微妙な造語だな。

容姿はペンギン八割、コルポックル二割といった所だ。

なんかリーダー格と思わしきサンタ帽子の近くに山から二匹のペックルがやってきた。

麦わら帽子とカウボーイハットを付けたペックルだ。

あれだ。個体によって付けている帽子に差があるのかもしれない。

ペックルはこの島を開拓するんだペン

そ、そうかがんばれよ

だからご主人には命令して欲しいんだペン

誰が主人だ

あなただペン。これをあげるペン

なんか肯定も否定もする前に変なアイテムを渡された。

一昔前のPDAみたいな情報端末でペックルカウンターという名称だ。

ペックルカウンターには三匹のペックルが描かれており待機』と表示されている。

待機のボタンを押すと従事させる仕事を選べるみたいだ。

そしてペックルには一匹一匹やる気』とやらがある。

サンタ帽子のペックルが100%で他二匹が70%だが、どういう意味だろうか。

あれか、空腹度とかそんな感じのゲージか。

まあペンギンだし魚でも食べれば回復するのだろう。

良く考えたら俺が押したボタンは魚だったな。

餌の事かよ

そうなると他のボタンを押したらどうなったんだ。

憶測だがそれに該当した生物が現れるに違いない。

そっちの二匹

麦わら帽子とカウボーイハットを呼び、アイテム欄に入っているイカを渡してみる。

イカを手に取った二匹のペックルはイカを食べた。

するとペックルカウンターのやる気ゲージが30%上昇した。

全個体が100%になった訳だがどうすれば良いんだ?

これはアレだよ。サポートキャラクターだよな。

条件はハーベンブルグ伯爵の屋敷に辿り着く、とかで以降開拓を手伝ってくれる。

まあシステム要素なら使わせてもらうが。

個体によって能力差あるよな。多分。

麦わらが畑仕事で、カウボーイが狩りだな。サンタ帽子何が得意なんだこいつ。

取り敢えず当てはまりそうな項目を探す。

農業、狩猟、畜産、漁業、伐採、建設、開拓、指揮の八項目だ。

指揮ってなんだ? リーダーっぽいし、これと相性が良いのかも。

でも既に俺が命令を出している様な気がするしな。ともかく、開拓という動作が何を意味しているのか確かめる為、サンタ帽子には開拓を命令させておこう。

仕事を始めるペン

そう言ってペックル達は走り去っていった。

きっと命令した仕事をやってくれるのだろう。

取り敢えず村に戻ろう。

村に戻ると俺は唖然とした。

サンタ帽子を付けたペックルが両手でハンマーを握って家屋を破壊していたからだ。

まだ始めたばかりなのか倒壊こそしていないが、今にも崩れそうだ。

なにやってんだよ!?

これはご主人。ペックルは開拓作業をしているんだペン

それは破壊って言うんだ! なんで家、壊しているんだ

新しい家を建てる為だペン

意味は理解できるがこの廃墟、壊されると俺の寝場所が無くなるんだが。

新しい家とか言っているし、後々建設とやらで家を作ってはくれると思う。

だがそれまでどうするべきか。

まあ小回りが利かないのがサポートキャラのお約束か。

わかった。お前は建設に回れ

わかったペン

そう言って帽子にハンマーを入れると今度はノコギリを取り出して立ち去っていった。

どんな構造なんだ? アイテム欄と同じ原理なのだろうか。

気になってノコギリを持ったサンタ帽子ペックルに付いていくとハーベンブルグ伯爵の屋敷跡地に着いた。

そして帽子から木材を取り出し、ノコギリを当て始める。

あの木材、どこから取り出したんだ?

嫌な予感がしてアイテム欄を眺めるとちゃっかり減っている。

あの帽子、俺のアイテム欄と繋がってないか?

いや、ノコギリなんて持ってなかったけどさ。

まあ良い。気にしたら負けだ。

他の奴は何やっているんだ?

ペックルカウンターを覗いて見る。

カルミラ島を簡易表現した地図が表示され、三匹のペックルがデフォルメされたマークで動いている。もはや別のゲームだな。

俺が耕した畑の辺りにいるペックルと森の中にいるペックル。

こっちは予想通りの行動だ。確かめる必要も無いだろう。

ともあれ便利なサポートキャラが現れ、作業は楽になった。

まあ開拓とやらをしておくか

その日は夕方まで今夜の寝所を残し、ハンマーで廃墟と化した村を破壊して回った。

家を破壊するのがちょっと気持ちよかった。

ペックルライフ

陽が落ちた。

夜目を取得すれば夜でも続けられるが精神的に疲れたので今日の作業を終了する。

そして取り出したるは開拓者の七つ道具を変化させた釣竿。

ペックルの餌というのもそうだが、釣りはゆっくりできるし、俺のソウルライフ。

俺は一週間の間硝子達を待ちつつ釣りをしていた岩礁へやってきた。

フィッシングマスタリーの影響で程々に釣れるが、まだ竿のレベルが低い。

まあ一週間続けて使っていたのでレベル3にはなったが。

釣れる魚はレベルが増える毎に増えている。

最初はニシンなどの安めの魚だった。

早く良い物を釣りたいが、この手のレベルアップ系装備は日々の鍛錬が物を言う。これからはどんなに忙しい日でも、一日一時間は釣りに割くとしよう。

お、早速引いている

個人的にはリールにもっと慣れたいが、七つ道具には付いていないのだからしょうがない。そんな風に考えながら、いつもの調子で竿を引いた。

なんかペックルが釣れた。

例え様もない怒りが込み上げて来て自然に言葉を紡ぐ。

サボるな! てお前、誰だ?

ペックルだペン

知っとるわ。

釣れたペックルは三匹のペックルと違いバンダナを頭に巻いている。無論、三匹が別の帽子を付けている可能性はあるが、個体表示だと考えると別のペックルだろう。

ペックルカウンターを見ると三匹は別々の場所で働いており、新しく四匹目の項目が追加されている。もちろん待機状態だ。

やる気は30%。

アイテム欄からイカを投げ渡すとパクッと二匹食べた。

家が早く完成してほしいので建設の手伝いをさせよう。

俺は新しく加わったバンダナのペックルをサンタ帽子と同じ建設と命令した。するとイカを食べていたペックルはバンダナからノコギリを取り出すとハーベンブルグ伯爵の屋敷跡地へと去っていった。

増えた?

あれか、ペックルは何か条件を満たすと増えるのか?

今回の場合、釣りで新しいペックルが加わった。

確かにデフォルメされているとはいえ、ペンギンだから海に居てもおかしくはない。

ま、まあ良い。

釣りは俺のソウルライフ。

これからはどんな事があっても一日一時間は続けるんだ。

そう自分を納得させながら釣りを続けた。

翌朝、東の空が薄っすらと明るくなってきた頃、俺はまだ釣りをしていた。

正直言えば眠いが、もちろん理由はある。

あれから定期的にペックルが釣れた。

今夜の収穫はバンダナペックルを含めて5匹だった。

つまり現在計8匹のペックルが俺の配下として働いている。

8匹の内6匹は建設に従事させている。寝る場所ができるのは良い事だからな。

重要なのはここ二日で稼いだ木材が心許ない。

ペックル収集はこの辺りでやめて一度寝よう。そして起きたらオノで木を伐採して材木を稼ぐ。そうすれば新しい家が完成する。いつまでも壊れた家屋で生活するのも嫌だし。

ともあれ俺は一度廃墟に戻ると床に就いた。

ご主人、起きるペン

どれ位眠っただろうか。

少なくとも身体がだるい所を見るに6時間は寝ていない。カーソルメニューの時計を確認すると08・26と表示されており、三時間程眠っていた計算だ。

えっとサンタ帽子か、なんだ?

ハーベンブルグ伯爵の置いていった箱から出てきたペックルだけあって、リーダーでもしているのだろう。サンタ帽子ペックルは困った表情で必要な物を催促してきた。

材木が足りないペン。このままでは作業が出来ないペン

だろうな

元々そんなに材木を持っていた訳でもないし、足りない物はしょうがない。俺は建設を一時停止させて6匹のペックルに伐採を指示し、寝直した。

それから四時間程眠った俺は太陽が丁度真上、お昼頃に起き出して朝食を作った。

今回の朝食はニシンとイカの丸焼き。

ニシンもイカも調理器具で鱗やら内臓やらを取り出し、焼いただけ。

素材の味が生きていますね。

料理スキルがまだそこまで高くないので普通だったけどな。

そうしてペックルに働かせておきながら呑気に起き出し、森で伐採作業をしているペックルの所へ向かう。

途中ペックルカウンターを確認するとそれぞれやる気が70%近くに低下している。

一日フル稼働で50%位か。

やがて森で伐採作業をしている6匹のペックルが見えてきた。

ペックルは巨木を切る用の大きなノコギリを左右2匹ずつで伐ろうとしている。

伐採量は思ったより早くないのか、6匹そろって俺の十分の一位。

う~ん、サポートキャラだとこんなもんか

俺の呟きにサンタ帽子が振り返って答えた。

ペックルはまだ熟練度が足りないんだペン

タイミングが良過ぎるだけに、不満に対する言い訳か何かだろうか。

そもそも熟練度なんかあるのか。というかこの調子だと畑の方もあんまり頼りにならないな。伐採は次に回すとして一度バケツに水を入れて畑へ向かう。

畑にて1匹で作業をしているペックルは伐採と比べても非常に遅い。

朝からやっていると安易に想像できる麦わらペックルはまだ水やりを終えていない様だ。

ともあれ、水をやり終えていない畑に水を撒く。

畑は植えてから二日が経っているので芽が太くなり始めていた。

現実と違って成長速度が速い。この調子なら明日には収穫だな。

そしてカウボーイハットのペックルがしっかり狩猟ができているのか確認する為、アイテム欄を調べると動物の肉』というアイテムが2つ増えていた。

何の肉かは知らないが一応狩猟はできているらしい。

昨日から続けてしているにしてはお世辞にも多いとは言えないが、熟練度が低いのだからしょうがない。

この二匹は後々もこの業務をさせるという事で固定させておこう。

毎日の業務を終えて森に戻ってきた。

ペックル達はまだ先程の木の伐採を続けている。

一応全ペックルにニシンを食べさせて、やる気を回復させはしたが速度は遅い。

あんまり期待し過ぎるのもアレなので自分で全てまかなうつもりで作業を続けた。

こんな生活が三日程続いてやっと屋敷跡地に家拠点という名の施設が完成した。

拠点は小さなログハウスで、ペックルカウンターと同じ効果のある道具が備え付けられている事以外普通の家だ。

拠点に付けられている島の地図を確認すると拠点レベル1と書かれている。

どうやら増設などもあるらしいが、今は寝る場所が出来ただけでも十分だ。

尚、この間夜釣りを毎日四時間繰り返しペックルの数が15匹になっていた。

もちろん俺と比べれば動きは遅いのだが、人数が増えたのと熟練度とやらが上がってきた影響か少しは役に立つ様になってきた。

一応個体によって得意分野があるらしく、熟練度の上昇に影響が出る。

大まかに帽子の外見で得意系統が予測できる、という所だ。他、偶に本人(?)が○○の仕事をしたいんだペン』とか言い出した場合、そっちを重点的にやらせている。

そしてサンタ帽子のペックルはやはりリーダーだった様でなんでも卒なくこなす。

現在熟練度の高さは全ペックル中一位だ。

きっと最終的な能力値はスペシャリストには敵わないのだろう、と予測している。

考えている傍からサンタ帽子のペックルが俺に用事があるらしく近付いて来た。

次は何の施設を建設するペン? 倉庫ペンね。わかったペン

いやなにも、言って

なんか自己完結したペックルがくるりとUターンして去って行った。

何がわかったペン』だ。最初から決まっているなら俺に一々聞きに来るな。

おそらくゲームシステム上作る施設が決まっているとか、そういう所だろう。

ともあれペックルは倉庫、牧場、水路と施設を増やしていった。

畑に割くペックルも5匹に増え、狩猟に出かけるペックルも5匹に増やし、牧場が完成後は狩猟で捕獲された生物が牧場に放たれ、畜産に5匹のペックルを使い、自分達の餌を得る為にペックル自身で漁業を営むに至った。

やがて倉庫とは別の、食料庫なる施設が生まれ、ここにペックルの魚を事前に登録して置くとオートでやる気を回復させ始めた。

そして伐採、開拓に割かれたペックル達が敷地を広げて行く。

この頃になるとペックルの数は50匹を超えていた。

能力はまちまちだが、熟練度も上がってきて仕事も速くなりつつある。

そうした安定した供給が完成した頃、サンタ帽子のペックルが言った。

森に巨大な怪物が居て開拓が進まないペン

ディメンションウェーブ第二波-終結-

サンタ帽子ペックルの言葉を聴いて、やって来たのは開拓途中の森。

既に他のペックルは避難して森は静かだ。

そうして何がいるのかを偵察がてら確認すると凶悪な顔をした大きなペンギン。

色は紫。フリッパーの部分が翼になっており、木の上に止まっている。

あの大きさで良く飛べるなとか、木は折れないのか、とは言わない。

この世界はゲームだからな、そういう超常現象も起こる。

とりあえずあいつを倒すか

久々にケルベロススローターを右手に持って構える。

見た所イベントモンスターっぽいし、そんなに強くはないだろう。

クククッ我が楽園を荒らす者には天罰を与えてやる。

そう息巻いた訳だが。

あんなのに勝てっこねぇ!

五分後、俺はモンスターカルマーペングーから命からがら逃げ出していた。

なんだ、あいつ。たった一発で2000もダメージ受けた。

単純なダメージだけならケルベロスにも匹敵しているじゃないか。

そもそも良く考えたら、この島はもう少し後になって来る場所だったな。

ドリルの存在からして、その可能性は十分あったが今まではモンスターがこの島にいなかったので忘れていた。

ぶっちゃけ俺一人であんな奴は倒せない。残念だが俺には無理だ。

硝子が居ればな

俺の中で最強は硝子だ。

今まで隣で何度も強敵と戦ってきて、ほとんど無傷という実績がある。

しかし、いない者を頼ってもしょうがない。

今はまだ無理でもエネルギーを貯めて後々ゴリ押しで倒せば良い。

取り敢えず、しばらくは伐採と建設を繰り返して施設を充実させよう。

断じて負け惜しみではない。

ともかく、森からは出てこない様だしカルマーペングーは放置だ。

覚えていろよ。いつか絶対腹を割いて素材にして食ってやる。

仕方が無いので今まで開拓に回していたペックルを別作業に回す。

とは言っても最近は命令を出しているだけで、特に何かをする訳ではない。

しかし餌の消費に問題がある。

50匹以上いるからな。一応はペックル自身にも漁業を任せているが、さすがに50匹分の食料を確保するには至っていない。

そういう訳で俺はここ最近釣り生活を営んでいる。

偶にペックルが釣れるからな。

釣りそれは俺のソウルライフ

もはや、言い訳のセリフになっている気もするが、良いんだ。

代わりに肉や木の実、野菜、卵、牛や羊などのミルクなどは俺が没収している。

こいつ等、魚貝類しか食べないし。

尚、ペックルの消費量が多過ぎてイカは随分前に底を尽いた。

この生活を潤滑に回すにはどうしても俺が釣りをしなくてはならない。

ははっ! 最高だ。

こんな生活もあって釣竿のレベルは7になっていた。

俺がカルミラ島に来てから釣り場にしているのは岩礁だ。

竿を海に垂らして、引きが来るまでのんびりと待つ。

ちなみに釣れる魚は。

メバル、カサゴ、アイナメ、クエ。

これ等の魚が釣れる。

どれも現実ではあまり食べた事が無いのだが、白身の魚が多い。

食べたら味が良かったので、毎朝ペックル用以外にも残す程だ。

クエに至っては見た目の割に凄く美味しかった。

現実では知らないが、この味が本物なら帰ったら食べてみても良い。

ぶっちゃけクエだけはペックルにあげたくない位味が良い。

正直、個人的にマグロより美味いと思う。

あんまり名前を聞いた事が無い魚だけど、今度調べてみよう。

あ~クエ、釣れないかな~

クエの事を考えていたら食べたくなってきた。

刺身にするか、鍋にするか。

この二つが一番美味しかったので基本二択にしている。

ペックル畑やペックル牧場から取れた食材を合わせると尚良い。

問題をあげるとすればクエは難易度が高く、フィッシングマスタリーを重点的に上げている俺ですら逃がす事がある。

例えが難しいがぬしでも釣るみたいに難易度が高い。

ぬしとは違って引っ張る力は重くないが、タイミングが厳しい。

だから、最初の内は十匹に一匹しか釣れない程だった。

海は風が強い日も多いのだが、突然強風がやってきた。

そこまで酷い物ではないが、ちょっと懐かしい。

ディメンションウェーブを初めて体験した時なんか酷かったからな。

そういえば硝子達は今頃何をしているんだろうか。

あれから随分経つが一向に来る気配がない。

カルミラ島での生活は一日一日忙しいので忘れていたが、気になるな。

ふと視線を海から空に変えると東の空が赤い。以前、皆と一緒に戦ったディメンションウェーブと同じくワインレッドに染まっている。

そういえば生活に追われていて忘れていたが、そろそろゲームが始まって二ヶ月目だ。

あれはもしや、ディメンションウェーブ第二波じゃないか?

なんだかんだでディメンションウェーブ第一波は楽しかった。

多少エネルギーを失うという問題もあったがエネルギーブレイドを手に入れるなど報酬も大きかったし、第二波も参加を決めていたのだが。

参加できない?

そんなバカな。

いや、ゲーム会社的には現在俺がここにいる事の方が問題なのかもしれない。

カルマーペングーの強さから適正じゃないのは間違いない。

自業自得とはいえ、不参加とは。

出せええええぇぇぇぇ! 俺は参加するんだー!

俺は海に向かって吠えた。

イベント中なら出られるかも、と淡い期待をしたが木の船でも相変わらずだった。

そうして諦めて砂浜で波の方を眺めながら体育座りをしているとサンタ帽子のペックルがやって来て言った。

大分開拓も進んできているペン

誰か会いたい人はいるペン?

そうだな硝子に会いたいな

その人の名前は硝子』で良いんだペン?

なんかペックルが不自然なセリフを吐いている。

何故サポートキャラクターが硝子の名前を聞きたがる。

教えてみるか。

函庭硝子って名前だ

詳しい文字を教えてほしいペン

そういうとペックルはシステムウィンドウを表示させて文字の入力画面を出した。

俺は一時の期待を込めて函庭硝子』と入力する。

わかったペン。会える事を祈っているペン

サンタ帽子のペックルはそう言うと踵を返して仕事に戻って行った。

良く分からないが、どちらにしても俺はディメンシュンウェーブ第二波に参加できそうにない。

結局、その日はペックル用の餌と俺用のクエを釣っていると陽が沈んで行った。

磯女が来る日

浜辺に何か流れ着いているペン

翌朝の早朝、ペックルが俺を起こして言った。

いや、まあフラグがあれだけあったので気付いてはいたが、まだ眠い。

最近はほとんどの業務をペックルに任せて釣り生活していたので少々自堕落な生活をしていた。特に昨日はディメンションウェーブに参加できないという事で釣りしまくったしな。

そうこう思考しながら俺が最初に流れ着いた浜辺にやってきた。

そこには垂直にうつ伏せで倒れている人の姿があった。

やべぇ、なんだこの倒れ方

ご丁寧に手が起立状態で完全に垂直だ。エンピツみたい。

なんか面白いからスクリーンショットを撮っておこう。

俺は両手でカメラのポーズを取るとその人物を撮影して何枚か撮った。

もっと近付けないかな?

近付いてアップの写真を撮る。

というか、このポーズじゃ砂とか海水で窒息するんじゃないか?

ゲームだから大丈夫なのかもしれないけど。

よし、もう一枚。

しかし近付いた瞬間、足をつかまれた。

ひぃっ! 磯女!?

誰が磯女ですか! って絆さん?

俺の足をつかんで磯女と化した硝子が戸惑いの言葉を漏らした。

つまり、昨日のペックルは仲間を呼び寄せる為のフラグか。

絆さん! 今まで一体何をしていたんですか! 心配したんですからね

そう呟きながら俺の小さな身体を抱きしめる硝子。

今まで硝子達が何をしていたのか俺に解らない様に、硝子達もまた、俺が何をしていたのか知り得なかった、という事なのだろう。

それにしても漂流してから随分と硝子の声を聞いていなかったが、妙に落ち着くな。

なんでだろう。いや、まあ硝子は頼りになるし、信頼できる奴なのは事実だが。

何をしていたと言われると微妙に答えに臆するが、率直に開拓をしていた

開拓、ですか?

ああ、島から出られないんだ

俺はこれまでの経緯を長々と語る。

漂流して一週間、皆を待ち続けた事、島から出られない事、開拓者の七つ道具を使って開拓を始めた事、ペックルというサポートキャラクターと開拓をしていた事、開拓が進んで比較的に生活が安定してきた事、昨日ペックルが硝子の名前を聞いてきた事。

これ等の話を続け様に話す。二週間近くを事実上一人で生活していた為、口数が増えたが、硝子は真剣に聞いてくれた。

そうですか、そんな事が絆さん

がんばりましたね

ありがとう

がんばったか、がんばってないかと言われれば、自分でもがんばったと思っている。

ペックルがいたけど、やはりNPCだ。一人で過ごすのはやっぱり寂しかった。

寂しさをごまかす様に開拓に身を投じて忙しい日々に意識を遠ざけたのも事実だ。

開拓系のゲームが特別好きだったのが救いだが、それでも硝子と会えて嬉しい。

硝子達の方は今まで何をしていたんだ?

はい。私達はあれから第一都市で目覚めたのですが

幽霊船の戦いの後、硝子達は全員が無傷で第一都市ルロロナの砂浜に流れ着いたらしい。

よかった。実は硝子と闇影のエネルギーダメージが無いか心配していた。

最悪、現在の俺の様に全員がバラバラになっていた可能性も危惧していたが、幸いそういった事はなかったみたいだ。

それから硝子は皆と直に再会した訳だが、俺と連絡が取れない事に気付いた。

チャットを送っても。

現在相手の電源が切れているか、電波の届かない所にいます』

と、ご丁寧に俺が硝子達に送ったチャットと別ヴァージョンが表示されたらしい。

おかしなチャットの言葉もそうだが、不可解な状況に硝子は皆と俺の探索に乗り出してくれたそうなのだが、尽く消息は掴めず、無駄に時間を浪費していく。

硝子曰く場所が海だっただけに、アルトが何かのイベントに巻き込まれているんじゃないか、と真相に近い憶測を提示して、海などを探索したが結果は今を見ればわかる。

そんな感じで経験値と過ぎて行く時間だけが肥大していった頃ディメンションウェーブ第二波が発生した。

ちょっとした焦りが硝子の心を支配した頃、宿の自室に突如巨大な手の形をした海水が現れ必死の攻防も虚しく、気が付いたらここにいたという。

なるほど、俺も第二波は見えたけど、このタイミングで呼んで悪かったな

いえ、絆さんが無事ならそれだけで良いのです

だけど第二波で硝子がいないのは結構な損失だろう。一波的な意味で

問題ありません。最初から参加するつもりはなかったのですから

それはどういう

硝子は瞳を閉じて大事そうにアイテム欄から俺が貸したエネルギーブレイドの柄を握っていた。そうして俺にエネルギーブレイドを手渡すと話を再開する。

絆さんに、これを返したかったんです

硝子は相変わらずだな

はい! 私はそうそう変わりません

何にしても元気そうでなによりだ。

カルミラ島に来てから皆の事だけは心残りだった。

船上戦闘スキルを未取得に回した俺的にどうなのかは知らないが。

それで、どうしてディメンションウェーブに参加しないんだ?

もう絆さんは、私に言わせるんですか?

? まあ言いたくないなら、それで良いけど

取り敢えず硝子だけとはいえ合流を果たせたのだから良いとするか。

ともかく再会祝いだ。昨日手に入れたクエを朝食にして祝いの席を築こう。硝子を連れて俺が寝泊りをしている拠点へと急ぐ。途中硝子がペックルの集団を見て身構えた。

化け物!

扇子二つを腰帯から瞬間的に取り出し、距離を取る。

しゃべりました!

やべぇ、反応が俺と同じだ。

まあ普通にペックル(笑)とかモンスターにしか見えないよな。

そもそも頭の悪い語尾に数だけが取り得のペックルだからな。

えっと、こいつ等がさっき説明したサポートキャラだ

そ、そうなのですか。沢山いるので驚きました

良く考えれば俺は見慣れたがこの光景は異質だよな。

立場が同じなら硝子と同じ反応をしていた自信がある。

でも凄いですね。この島では建物に巨大なペンギンがいるんですね

ですから、あの魚の印が付いている建物に巨大な紫色のペンギンが

指を向けた方向を眺める。

そこにはペックルの食料が保存されている施設、食料庫がある。

硝子の話通り魚のマークをしており、あそこに魚を入れておくとオートでペックル達がやる気を回復させる施設なのだが。

施設が襲われているペン

サンタ帽子そんな冷静に言われてもな

ペックルのリーダー的存在、サンタ帽子ペックルが淡々と言った。

個人的にはもう少し慌てて報告してほしかった。

しかしカルマーペングーは森から一歩も出てこなかったはずなんだが。

すると珍絶景でも眺める様な硝子に視線がいく。

島に存在するプレイヤーの人数が増えたから?

ゲームではよくある事だが、参加人数が増えると難易度も上昇するという事があるんだが、もしかしたら今回のカルマーペングーはそれに該当するかもしれない。

と、ともかく今は硝子先生がいるからな。あのデブ、絶対食ってやる

先生? なんですか、その悪意の篭った表現は

俺の中で硝子は先生なんだよ

今度追求しますからね

と、ともかくアレを倒してくれないか? 俺一人じゃ厳しくてな

わかりました。絆さんといると、変わった事ばかり起こりますね

そう言って楽しげに微笑んだ硝子。

別に好き好んであんなのと遭遇している訳ではないんだが。

ともあれ俺達は食料庫まで走り、襲撃しているカルマーペングーに戦いを挑んだ。

ここまでの道で扇子を帯から抜いていた硝子は道中スキルをチャージしていた。

和服と扇子が幽霊船の頃より高価な物に変わっており、俺がいない間、色々あった事がうかがえる。先程俺を探す間、経験値が入ったと話していたので強くなったのだろう。

俺の方はカルミラ島で開拓をしていただけなので、何か置いて行かれた様な気がする。

よし、俺も負けていられないな

漂流して伝える事が叶わなかったが、硝子に強くなる方法を教えてもらう予定だった。

俺だってただ島で漂流生活をしていた訳じゃない。立派に生きていたんだ。

エネルギー/138630。

マナ/49070。

スキル/エネルギー生産力ⅩⅣ。

マナ生産力ⅩⅠ。

フィッシングマスタリーⅩ。

解体マスタリーⅦ。

破壊マスタリーⅢ。

ファームマスタリーⅠ。

クッキングマスタリーⅣ。

俺の生活生産系だ。わかっていたけどな。

ともかく俺は硝子から返してもらったエネルギーブレイドとケルベロススローターを握る。やはり俺の臨戦態勢と言えばこの装備だ。

いや、俺はこのままで良いのか?

本当にこの戦い方で硝子に今までがんばったと胸を張って瞳を交わす事ができるのか?

エネルギーブレイドの様な、ゴリ押しで満足して良いのか?

違うだろう。

俺が目指すのはもっと強く、突飛に敵を倒す事だろう。

なんか違う気もするが、俺にはもっと違う戦い方があるはずだ。

そこでアイテム欄に入っている開拓者の七つ道具が目に入った。

こ、これだ!

輪舞三ノ型・霞!

カルマーペングーに霧の様な演出の四段打撃攻撃を硝子が命中させると同時に俺は突撃する。

鋭いモーター音を鳴らしながらカルマーペングーの脇腹をドリルで貫く。

なに、レベル4だ。多少はダメージだって期待できるはず。

それにドリルはまだ事実上未実装装備だぞ。俺の使う装備の中では威力がある。

おお、カルマーピングーが少しひるんだ。

その隙に硝子が二つの扇子を使って、左右上下から攻撃を仕掛ける。以前よりも強くなった硝子の攻撃で後ろずさったカルマーペングーに再度ドリルを当てる。

やや卑怯な気もするが、今までの俺は常に卑怯だった気もするのでコレで良いと思う。

ともあれ、さすがは破壊武器に属する装備だ。

カルマーペングーのフリッパーに螺旋が巻き込まれて羽が抜け落ちる。

ダメージとしては期待して良いのではなかろうか。

簡単に表現するなら、波平おじさんの最後の希望にドリルを巻き込む様な物だ。

そんな感じの嫌がらせでは無く、鋭い攻撃を繰り返すと意外にもあっさりカルマーペングーは大きな断末魔を上げて倒れた。

攻撃は重いのですが、思いのほか行けましたね

そうだな。攻撃を受けなかったのは硝子のおかげだ

なんだかんで俺は横からドリルで攻撃していただけだからな。

硝子はカルマーペングーの攻撃はスレスレの所で避けていた。

俺は避けられないが、一発一発の攻撃が重い代わりにスピードが硝子よりは遅かった。

そういう意味でこの勝利は必然と言える。

さてデブ鳥、解体の時間だ。開拓の邪魔をしたケジメを取ってもらう

鳥系モンスターっぽいので、シルバーガラスキでカルマーペングーを解体する。

鶏肉、羽根、羽、クチバシ、羽毛などが取れた。

そして解体が大体済んだ頃。

ん? なんだ?

カルマーペングーの死体がモゴモゴと動き出した。

え~っと

嫌な沈黙が支配するが、率直に起きた事実だけを口にするならこうだ。

カルマーペングーの体内から3匹のペックルが飛び出してきた。

なんとなく起こりそうだとは思っていたが、ペンギンの腹からペンギンが出てくる光景はちょっとどういえば言いか、シュールだ。

ペックルは頭に兜、インディアンハット、口にスカーフを付けた3匹。他のペックルと違い、兜は剣、インディアンハットは弓、スカーフは短剣を手に持っている。

なんだ、こいつ等。

ペックルはストレスが溜まると不良化しちゃうんだペン

振り返るとサンタ帽子のペックルが説明を始めている。

カルマーペングーはやっぱりペックルの派生だったのか?

というか、不良化って次元じゃないだろ。あれはどちらかと言えば進化だろう。

ペックルカウンターを見てほしいペン

言われて隣にいた硝子とペックルカウンターを見る。

すると今まで存在しなかったストレス』なる項目が追加されていた。

ペックルはストレスが100%になるとカルマーペングーになってしまうペン。これからは気を付けてほしいペン

何が気を付けろだ。そんな物があるなら最初から教えろ。

しかもこれまで昼夜問わず働かせていた影響か、全個体が90%を超えている。

サンタ帽子は特別仕様なのか0%だ。

尚、新たに加わった3匹は低い。暴れた後だからだろうか。

どうしたんですか?

他にも項目が増えている

ペックルの従事できる仕事の中にダンジョン』と採掘』が追加されている。

採掘はわかる。確かヘルメットを付けたペックルがいたのでそれが該当するはず。

ダンジョンは今目の前にいる兜、インディアンハット、スカーフだろう。

ともあれ、ストレスが等しく高いので全員を待機状態に変更した。

一応、ある程度の仕事は完了しているはずだからだ。

明日からはローテーションを組んで仕事をさせれば、やる気とストレスを管理できる。

一応食料庫をカルマーペングーから防衛できたので餌を食べてやる気を回復させた後、この3匹をダンジョンに従事させた。

すると3匹のペックルは山を登って中腹地点にやってきた。

カルマーペングーを倒す前は岩が塞がっていた場所に、丁度ペックルが一匹通れるか通れないか微妙な大きさの、小さな穴があった。

そこに3匹は順番に入っていくと3匹の項目に探索中』と表示された。

良く解らないが、ダンジョンを探索しているみたいだ。

と、ともかく一度家に行こうか。硝子

ともかく、俺はこんな感じで磯女ではなく硝子の活躍によって開拓が進んだ。

師弟関係

では絆さん。どこからでも良いので来てください

俺は現在硝子と対峙していた。

別に喧嘩している訳じゃない。以前心に決めていたプレイヤースキルを学ぶ為だ。

カルミラ島での生活は時間を作ろうと思えば思いの外作れるので、朝昼晩と一日三回手合いを取ってくれる事になっている。

何故一日三回にするのか尋ねた所、戦いに身体を慣らせるのは重要だが、身体だけで動くと後々悪い癖が付いてしまうらしい。

硝子曰く、頭と体が同時に動いて初めて型として成立するそうだ。

頭で考えて、体で実行する。

単純だが難しいこの動作を実現できて初めて硝子の様になれる、という話だ。

思ったんだが、硝子って何かの武術とか現実でやっているよな。絶対。

戦い方ってどんな方法でも良いんだよな?

はい。競技ではないのですから、勝ちさえすれば良いのです

少々暴論だがディメンションウェーブは別に戦い方にルールはない。

ジャンプしても良いし、飛び道具を使っても良い。

俺は取得していないが魔法なんて物もあるのだからルールもへったくれもないよな。

ともかく距離を取っている俺は釣竿を硝子に向ける。

俺の所持する、遠距離武器として機能する装備は釣竿だけだ。

その近付かれるまで釣竿を使うというのはスキル構成からしてありだと思う。

カーブを掛ける形で右側からルアーを投げる。

これによって硝子は糸とルアーという制限を受ける為左から避けるしかなくなる。

もちろんジャンプなどの可能性も考えるが、俺のコントロールはルアーの方向を途中から変えられる。つまり避けられても一度に限り、追撃を掛けられる。

絆さん。自分のいる位置は知っている事を前提に動いてください

ルアーの移動方向が硝子にバレており、ルアーの移動を逆にコントロールされた。

つまり硝子に当てるつもりがこっちに戻ってきた。

それを避けようとするも硝子がルアーと同じ速度で飛んでくる。

判断として釣竿を投げ捨てて開拓者の七つ道具をハンマーに変えて振りかぶる。

その調子です

振りかぶったハンマーをバックステップで避けた硝子が余裕そうに呟く。

勝てるとは思っていないが、せめて一度位は焦らせたい。

ハンマーを避けた硝子は直ぐに攻めてくるだろう。そうなると重いハンマーでは不利だ。

俺はハンマーを直ぐに小箱の状態に戻して、利き手である右手にケルベロススローターを持って構える。

次の瞬間、硝子が突撃して来た所に切り掛かる。

当然二つある扇子の片方で流されるだろう。これも予想済みだ。

左手に握っていた開拓者の七つ道具をドリルに変化させて貫く。

硝子はケルベルススローターとは別の扇子で流す様に受け止めるもガリガリという音が響いて、次の瞬間地面を引きずる様な音と共に硝子が俺の視界から消える。

少し腕を上げましたね。絆さん

左斜め後方から扇子が向けられていた。

要するに負けた。

相手を褒めながら自分が勝つって、微妙に嫌味だぞ

師匠というのは得てしてそういうものですよ

まあ弟子が師匠を簡単に抜くとかマンガだけだよな

そうですね。ですが絆さんは私が教えた通り、頭で考えて体で実行しています。体得できれば私位にはなれると思いますよ

半分はお世辞が入っているんだろうが、そうなると良いな。

ともあれ、現実では体力的に無理だと思うけど、身体の追い付くこの世界でなら考えた通りに動く事が少しずつだができる様になってきた。

そもそも硝子はいつもこんなに集中しながら戦っていたのかって感じだ。

この戦い方、会得できれば凄いとは思うんだが、精神的に疲れる。

まあ疲れない戦いなんて無いとは思うけど、一日三回なら可能だが、俺では常に維持はできそうにない。

絆さんに助言をすると、相手を良く見る事です

見てはいるんだ

はい。ですが見ると言いましても、相手の全てを見るのです

全て?

全てです。爪の先から髪の毛の一本、体内を流れる血液の流れまで見通せれば

見通せれば?

どうなるんでしょうね?

硝子が冗談を言うのは非常に珍しいのでビックリした。

もちろん悪ふざけで言った訳ではありませんよ。私はその領域まで踏み込んではいませんが達人になると、そういう方もいるそうです

どんな人間なのかは理解できないけど、硝子が言うのだから本当にそういう人がいるんだと思う。硝子は嘘とか言った事無いし。

まあ朝の訓練は終了したし、ペックルに指示でも出すか。

ストレスゲージが生まれてから休ませる必要が出てきたので、開拓が停滞気味だ。

しかし一日で蓄積するストレスの量から察するにカルマーペングーを倒すまではどんなに働かせても不良化はしなかったと思う。

おそらく、何かしらの条件を満たすまでロックが掛かっていたのだろう。

条件と言えば。

そういえば俺を探していたって言っていたけど、新大陸とか見付かったか?

いいえ。見付かりませんでした

そうか中々難しいな

いえ、そうではなく。どの方向に船を進めても、ある程度進むと必ず嵐に巻き込まれて、帰らずの海域に辿りつくのです

また迷ったのか?

それも違います。数時間程彷徨うと第一都市近辺の海域に戻ってしまいます

さすがに俺がいない間に対策を取らなかったのは考え難い。

あっちにはアルトもいたのだから、RPGのお約束とかは考えたはず。

それでも何も見付からなかったと考えるとペックルと同じく何か条件を満たしていない要するにロックが掛かっている可能性があるな。

例えばディメンションウェーブが一定数完了しないと進めないとか、そういう感じだ。

で、俺達が参加したリミテッドディメンションウェーブはクリアした人間がカルミラ島を手に入れて、条件を満たすまでのサービスステージの様な位置付けだと考えると、普通とは違う異常行動、この場合海を目指してしまった人間への報酬とも考えられる。

第二波と時を同じくして硝子がこちらに来られたのもそういった理由があるからか?

わからない。

でなければ、カルマーペングーを倒せなかった場合のバランスが取れない。

おそらくアルト辺りを呼んでいた場合、カルマーペングーは今も森にいたんじゃないか。

憶測になってしまうが、合計レベルに応じて何か条件が解除される。

仮にその憶測が正しいとすれば、硝子は相当レベルエネルギーが多い。

闇影の次にエネルギーが多いし、装備も良い。

闇影を呼ばなくて良かったな。あいつを呼んだらシステムが牙を剥いた可能性もある。

例えばネオカルマーペングーみたいなモンスターに変異していたかもしれない。

まああくまで憶測でしかないが今が安定しているなら良いとしよう。

さて、ペックルダンジョンはどうなったかな?

現在5匹のペックルが例のダンジョンを探索している。

最初ダンジョンに向かわせた3匹は2匹のペックルを連れて戻ってきた。

三角帽子とシスターベールをつけたペックルの2匹だ。

ペックルの分際で俺達よりRPGのパーティーっぽい、この5匹。

兜が戦士でインディアンが弓使い、スカーフが盗賊、三角帽子が魔法使い、シスターが僧侶実にバランスの良いパーティーだ。

俺達のパーティーもこれ位構成が整っていればな。

まあ俺が一番色物な気もするので間違っても口には出せないが。

え~っと今回の報酬は?

ペックルダンジョンはやる気が下がりやすく、ストレスが溜まりやすい。

正確には全個体のやる気が0%になった段階でオート帰還するか、何かを発見して自発的に帰還するかのどちらかだ。

今までの傾向だとペックルダンジョンでは新しいペックルが発見されていた訳だが。

紙切れ?

倉庫完成後はペックルが獲得したアイテムは倉庫に入る様になっている。

単純に食物や肉、魚といった類の品が膨大なのが理由だが、施設運営で使う場合もある。

そういう訳で俺は硝子と一度別れて倉庫に来ていた。

ちなみに硝子は島を探索している。

一応俺も目を通したが百聞は一見にしかずと言わんばかりに自分の目で調べたいそうだ。

これか設計図?

紙切れには何やら建物の絵とその作り方が描かれている。

見た感じ病院をデフォルメした様なデザインだ。

アイテムとして使ってみると、こう表示された。

施設ペックル病院を建設できるようになりました。

簡易的に施設効果が表示されているので見てみる。

ペックル病院。

怪我をしたペックルやストレスを溜めたペックルの介護をしてくれる。

全個体に与えるストレスの増加量にマイナス補正を発生させる。

施設レベルが上がる毎にマイナス量が増す。2レベル毎にやる気にも影響を与える。

尤も使われる薬品については秘匿されている。

なんだ? 最後の一文は。開発者は何を意図してその説明文にしたのかは知らないが、ブラックジョークか何かだろう。

ともあれ、ペックル病院を建設するとストレス増加を抑えられるみたいだ。ローテーションに影響が無いかを確認した後、手の空いているペックルに建設を命じた。

こんな風にペックルダンジョンから設計図を拾ってくるんだな。

尚、この病院を建設するには今までと違い鉱石が必要らしい。

鉱石はペックルが採掘をする事で倉庫に溜まっていく。

現状しょぼいというか銅や鉄ではなく、島限定の鉱石が多い。まあ銅や鉄が大量に手に入ったら、カルミラ島を手に入れたプレイヤーが有利過ぎるからな。

ちなみに俺がドリルで採掘すると稀に銅や鉄が出てくる。

100個に1個位だけど。

さて、そろそろ釣りでもしているか。などと考えていると硝子からチャットが届いた。

珍しいな、と思いながらチャットに出る。

私だけ教えるのは不公平かと思いまして、一度教えて頂きたい事があったんです

なんだ? 俺が教えられる事ならなんでも答えるぞ

では、釣りについて教えて頂けませんか?

こんな感じで、俺一人だった生活が二人に変わっていった。

新たな開拓地

相互師弟関係を結んだ俺が硝子に釣りを教えていると、ついにその時は訪れた。

東の海、赤く染まった空が閃光を放って閉じる。やがて青い空に戻った。

そうして強制的に現れるシステムウィンドウ。

ディメンションウェーブ第二波討伐!

今回は不参加なのであまり期待していないが貢献度などの総合順位を確認する。

えっと。

総合順位暫定100位、絆†エクシード。第二波免除。

総合順位暫定100位、函庭硝子。第二波免除。

暫定ってなんだ?

項目を調べると免除と表示されており、更に戦績報酬にリミテッドディメンションウェーブ討伐による免除と書かれている。

やはりこの島は何かしらの条件に入っているのか。

さて、俺の仲間がどうなっているか。

スピリット順位一位、闇影。

相変わらずエネルギーは一番なのか。

まあ、あいつはドレインマニアだからな。この前キャラがブレていたけど。

前回と同じくアルトとロミナが物資支援の順位に入っている。

良く見れば前回と似た様な名前が並んでいるので商売系は固まってきたな。

次に戦闘系に視線を移していく。

今回は五位までに紡の名前が無かった。

参加していれば上位にいるだろうと踏んで合計ダメージの欄を探す。

合計ダメージ27位、紡†エクシード。

紡は前回よりは少なくなっている。

俺達と付き合って海で戦っていたから前線組よりレベルが低いのかもしれない。

逆にディメンションウェーブ第一波と違って、相性が悪い敵がいた、とも考えられる。

第一波は敵が沢山沸いてきたから大鎌と相性が極端に良かったからな。

月間生活ランキング1位、絆†エクシード。

俺かよ!

いや、まあカルミラ島での生活はサバイバルって感じだが。

ペックルとか、破壊とか、ドリルとか、釣りとか釣りとか釣りとか。

何を基準に計られているのかは知らないが、この島でやっていた事は多彩だからな。

単純に釣り、家屋の破壊、料理スキル、伐採、採掘、田畑を耕す、野菜の収穫。

数え上げればきりがない。条件は分からないが一位というのも少し分かる気がする。

そもそも皆と帰らずの海域を彷徨っている時も釣り生活だったからな。

良く考えれば、この一ヶ月日常系のプレイばかりしていた。

まあ良いか。一位なのは素直に嬉しいからな。

さて、次はスキルや追加装備だな。

追加スキル、及びアイテムの実装。

今回は生活系の装備が多く、やはりドリルも含まれていた。

なんかドリルと同じく機械的な物が増えた気がする。

伐採斧にチェーンソウって世界観的に大丈夫なのか?

一応は文明発展による大発明的な事が書かれているが、どうなんだろう。

ともあれドリルが項目に増えたのでこれからはスキルを習得できる。

後で取得しておこう。最低でもこの島では使えるだろうし。

何より戦闘に使うというのもいいかもしれない。

今度、カルミラ島から脱出できたらロミナに作ってもらうか。

他は後でゆっくり確認するとして最後の報酬だ。

前回と同じく報酬を受け取りますか?』という選択肢をはい』と押す。

すると見慣れた、けれど描かれている絵柄が微弱に違うルーレットが回った。

あ! 今一瞬釣竿の絵柄があった。

アタレ、アタレ、アタレ!

スクロールが止まり、釣竿が三つ並んだ直後、パチンコやスロットの確率変動みたいに絵柄が三つともずれて釣竿ではない、剣の柄みたいな絵柄にすり替わる。

いや、それじゃないから!

と思ったのも束の間、獲得アイテムが表示される。

エネルギーブレイドアタッチメント獲得。

微妙。

当たって嬉しい様な、外れて悔しい様な、激しく微妙な気分だ。

アタッチメント意味は付属品だったか。

なんとも縁があるこのアイテム。エネルギーブレイドを所持しているが条件か?

ともあれ合成できるか確認してみる。

アタッチメントは小さな球体の形をした結晶だ。

丁度、エネルギーブレイドの柄の出力口にはめられる大きさ。

実験にはめてみるとカチッという良い音がした。

エネルギーブレイドⅡ獲得。

Ⅱ。

性能はどうなんだろうな。

前回とは違って説明文は表示されなかった。

まあさすがにⅠより性能が低いはずがない。

今まで通りいざという時に活躍してもらうとしよう。

はぁ参加したかったな

一体どんな敵が現れて、どんなボスと戦ったのか。

俺自身戦闘スキル構成ではないので参加は無謀な気がするけど、一回目が盛り上がって楽しかっただけに不参加は悔やまれる。

よし、第三波は絶対に参加しよう。うん。

丁度硝子に訓練してもらっているんだし、その成果を試す感じで。

まあ次のディメンションウェーブはきっと来月だろう。

今までの法則からして。

よかったですね。絆さん

むしろ参加できなくて溜息を吐いていたんだが。

硝子の言葉に何か含まれた意味があると思うので言葉を待つ。

いえ、絆さんの生活ランキングが一位なので皆さんに安否を結果的に報告できています。そして私の項目を見ていただければ、一緒にいるんだろうという予測は付くかと

確かに行方不明の俺が生活ランキングで一位だったら無事である事は知らせられる。

この島から外部に連絡手段が無い以上、しょうがないと言えばしょうがないが。

絆さん。そういえば気になっていたのですが、奏さんという方は絆さんが以前話していたお姉さんでしょうか?

ああ、そうだ。そういえばもう二ヶ月近く会っていないな

最後に会ったのはゲーム開始一週間後の合流時だ。

紡の方は後からパーティーに加わったから忘れていた。

良く考えると俺は姉さんがどんな事をしているのか知らないんだよな。

確か戦闘スキルを取るみたいな事を最初の頃言っていた覚えはある。前回のディメンションウェーブで、目に入る順位に名前が無かったので気が付かなかった。

気になってランキングから姉さんの名前を検索してみる。

すると。

総合順位64位、奏†エクシード。

なんか微妙に高い順位にいる。

前回のディメンションウェーブでは名前も聞かなかったので驚いた。

もしも第二波に参加できていたら姉さんの活躍を目にできたのだろうか。

あれであの人もゲーマーだからこの順位なら勇姿を拝めたのかもしれない。

どちらかと言えば最大レベルなどが見付かって、装備やスキルが研究し尽くされてから強くなるタイプだからこの結果は意外とも言える。

まあ今度会ったら褒めておこう。

さて問題は、俺達はいつまでこんな生活を続けなければいけないか、か

以前考えた予想ではディメンションウェーブが発生すれば出られると予想していたが、どうやら予想が外れたらしい。開拓がある程度進めば出られると信じてペックルとがんばっているが、先が見えないからな。

ペックルカウンターを見ても変化はペックルが1匹がこっちに向かってきている。

来る方向を眺めると何故か太陽を浴びて、頭上が光っているペックルが見えた。

特徴的な赤い三角の布の先端に白いボンボンが付いている相変わらずのペックル。

毎回思うんだが、どうして報告に来るのはサンタ帽子限定なんだろうか。

そして、てちてちとやってきて言った。

新しい開拓地を発見したペン

このタイミングでか

行ってみますか?

ペックルカウンターに表示された新しい開拓地とやらに向かってみる。

場所は中腹辺りにある、上への道を邪魔していた崖だ。

ロッククライミングでもできれば話は別なんだろうが、生憎そういうスキルは持っていない。なので後回しにしていた。

崖?

自称発見したという新しい開拓地とやらは崖になって進めなかった。

見てみると崖の向こうに数匹のペックルが何か作業を行っている。

あいつ等、どうやって向こう側に行ったんだ?

絆さん。あれを見てください

硝子の指差す方向を眺めると少し高めになっている崖に一匹のペックルがいた。

ペックルは何を思ったのかそのまま崖へ向かってダイブ。

ははっ。死んだな。

いや、ペックルはどんな過酷な労働を強いられても死なないけどさ。

しかし無意味にストレスゲージを溜められると困るんだが。

ん~~っ!?

飛んだペックルが何やら紐の様な物を使って頭上にある引っ掛ける部分に紐を引っ掛けて綺麗な弧を描いて向こう岸に着地した。

俺が唖然としていると、また同じ様にペックルが飛んで渡る。

え? あれが正規ルート?

絆さん。以前話していた開拓者の七つ道具にロープという項目があったのでは

あー、なるほど

しかしあれをするのか?

アクションゲームなんかでは良くあるギミックだが、正直ロープでターザンはちょっと厳しい物があるぞ。

下は深く、流れの強い川になっているので死にはしないと思うが、怖いだろう。

俺が嫌そうな表情をしていると硝子が申し出てくれた。

絆さん。私でよろしければ開拓者の七つ道具を借りて行って見て来ましょうか?

はい。この手の運動は小さな頃からしているので問題ありません

忍者か、お前は。

いや、忍者は闇影か。闇影はどちらかと言えば忍者というかジャパニメーション・シノビって感じだからな。こんなアクロバットを闇影にはできないだろうよ。

まあ硝子ができるなら頼むとしよう。

じゃあ頼んで良いか?

はい。任されました

小箱の形をした開拓者の七つ道具を交換ウィンドウで渡す。

重要アイテムなのか手渡しでは渡せなかった。

じゃあ頼んだぞ。大体の事は任せるから後で報告してくれ

承知しました

そうして硝子はペックルと同じ要領でロープを器用にも使って向こう岸に渡った。

いや、本当お前は忍者かって話だ。

それにしても硝子の現実の姿が全く想像できない。

現実の事を聞くのはマナー違反だろうけどさ。

向こう岸で手を振っている硝子に手を振り返して、硝子は探索に向かっていった。

硝子なら仮にモンスターとか居ても大丈夫だろう。

そうして数時間程した後、硝子から朗報が届いた。

水が綺麗な池を見つけましたよ。

新たな開拓地である池を発見した硝子。

その情報を聞いた俺がまず取った行動はこうだ!

ターザン決めるぜ!

釣りの事となると頭のネジが外れる俺は、今まで通り一直線に行動した。

硝子に開拓者の七つ道具を返してもらい、ロープを使った訳だが。

あ。

ロープを引っ掛けるまでは成功した。だが、次の難関である飛距離が足りない。

要するに失敗して崖に落ちた。

崖下は川になっており、水面に落下するまでの間、例え様も無い浮遊感に襲われる。

やがて水面に身体を打ちつけた音と、冷たい水の感触が広がり、川を流される。

泳ぎスキルとかそういう次元ではなく、川の流れが速過ぎて意識が遠のく。

気が付くと俺は島の川と海の間、河口近くに流れ着いていた。

こういう時、プレイヤースキルが無い自分が嘆かわしい。

尚、どうでも良い補足だがダメージ1000受けた。

エネルギー的に死亡こそしないが、シールドエネルギーを超えている。

もう一回だ!

10回程挑戦したが、結局向こう岸に渡る事はできなかった。

残念ながらロープのレベルはあまり上げていないんだ。

使う場所がわからなかったというのも理由だが、突然必要になると困る。

絆さん。私が向こう岸に送ってみましょうか?

絆さんは本当に釣りが好きなんですね。確約はできませんが、力を尽くしてみます

そうして開拓者の七つ道具を硝子に渡し、俺達はもう一度崖までやってきた。

硝子も話しているが二人で渡れるかは、かなり怪しい。

だが、もしかしたら硝子なら行けるんじゃないか?

と、期待した。

それでは行きますよ? しっかり抱きついていてくださいね

おう!

俺は硝子の身体にがっしりと抱きついている。身体が小さいので腰の辺りに腕を回す形だ。システム再現だが硝子が着用している和服と硝子のラインを感じられる。

我が侭を言えば、こんな小さな姿ではなく、もう少し大きくて、俺が抱きしめられる形が良いんだがな。いや、そういう趣旨じゃないのは理解しているけどさ。

ともあれゲームなので体重云々は分からないが俺はロリキャラ、軽いかもしれない。

いざ、出陣。

そうして崖に向かってダイブした訳だが。

硝子は俺と違ってすんなりと完璧な位置取りでロープを取っ掛かりに引っ掛ける。

そして俺達にロープを軸に遠心力が発生して向こう岸へ飛んだ。

飛べた! と思ったのも束の間、ロープの方が重さ耐えられなかったのかロープが軋んでブチリという良い音を立てて遠心力が本来とは違う方角へ機能する。

やがて見えてきたのは向こう岸の崖ではなく、壁だった。

このまま行けば無意味にダメージを受けそうな所を硝子が落下中に扇子を取り出して壁に向けて突き刺し、同時に足をバネの様に当てて衝撃を和らげる。

そうして壁にこそぶつからなかったが跳ね返った俺達は川へと落ちていった。

結果俺達は、二人そろって垂直にうつ伏せの体勢、エンピツの様に河口に流れ着いた。

ぐああああ!

い、いや硝子は悪くない。普通に無理だったんだよ。二人ターザンはさすがに

みたいですね

こんな感じの暴走もあったが、ペックルの開拓は進んでいった。

俺は現地に行けないので分からなかったが、硝子に任せて崖向こうは着実に開拓が進んでいるらしい。

尚、ロープのレベルが低いから俺では飛べないと結論付けてレベル上げ中だ。

開拓者の七つ道具はどうやら所持している人物毎にレベルが設定されるみたいでな。

ともあれ俺のロープレベルが3になり、後ちょっとで崖を渡れると思った頃。

ある日、ダンジョン攻略部隊が橋』の設計図を拾ってきた。今までペックルのやる気、ストレスに補正を掛ける施設が多かったが、島内施設の誕生だ。

俺はすぐにペックル達へ橋建設を命じて例の開拓地への橋が作られていく。

無論、一秒でも早く池で釣りをしたい俺だが結局俺がロープで岸を渡るよりもペックルが橋を完成させる方が早かった。

橋が完成したペン

サンタ帽子ペックルの報告を耳にした直後、俺は硝子を連れて向こう岸に渡った。

崖より先は、今まで目でしか見えなかったが、近付くと森が深い。

暖かい気温と草の腐った様な臭いとジメっとした湿り気からジャングルの様な印象を受ける。環境音も鳥と虫の鳴き声がひっきりなしに流れていて落ち着かない。

この辺りはまだ伐採が進んでいないのだろう。

橋が完成したのでペックルの移動に掛かるタイムロスも減るからな。

見た感じ、今までの開拓地と比べて木の種類が違うな。

そういえば材料が足りなくて作れない施設が増えていたが、木の種類か。

単純に伐採と言っても伐る木によって手に入る物が違うのか。

まあ伐採斧にスキルがあるのだから同じ物しか手に入らないなんて事はないはずだよな。

絆さん、こちらです

既に何度か探索をしていた硝子が道を教えてくれる。

俺が池に行きたいと言っていたのを知っているだけに歩みは一直線だ。

やがて見えてきたのは大きな池。

これでもっと大きければ湖と呼ぶ所だが、そこまで広くはない。

精々現実に存在する記念公園の大きな池程度の広さだ。

水は綺麗なのだが下に深い。

俺は現実では釣りをあまりした事が無いので何が釣れるか見当もつかない。

コイとかだろうか?

よし、弟子よ。これからはここで釣りをするぞ

はい、わかりました。お師匠様

若干俺の方が色々な面で弟子より劣っている気もするが釣りでは俺が師匠だ。

戦闘では硝子が師匠なのであんまり偉そうな事は言えないけどな。

まあ師弟ロールプレイだと思っている。俺も硝子との修行で師匠と呼んでみるか。

ともあれ釣りだ。

今まで海で我慢していたので気分が高鳴る。

開拓者の七つ道具は硝子に使わせて、俺は愛用の竿を使う。

餌が無いのでルアーだが、ずっとやっていれば一匹ぐらい釣れるだろう。

早速釣竿を振って光のルアーを池に投げ込む。

フィッシングマスタリーからくる完璧なリリース故に音など立てない。

まるで撫でる様に水面を微弱に揺らして光のルアーは泳ぎ出す。

後はリールをうまい具合に巻いて魚を引っ掛けるだけだ。

光のルアーが泳ぎ始めた直後、巨大な魚に追いかけられている。

あのままでは胃まで一直線で引っ掛けるのは難しそうだ。

俺は光のルアーをコントロールして食べられる直前に唇に引っ掛ける。

おそらくは巨大ニシン、イカに続くぬしクラスの魚だろう。

最初の釣りで引っかかるとは運が悪かったな。

プツン!

巨大な魚に光のルアーが引っかかった直後、糸が切れた。

それも少し強く引っ張られただけで。

俺の釣竿は余った糸と竿の部分だけが残る。

光のルアーがああああ!

無意味に感情の篭った俺の叫びが池に木霊するのだった。

海女現る

光のルアーを失った俺はしばらくの時を池で餌無しで釣りをしていた。

硝子には開拓者の七つ道具を渡しているのでどうしてもそうなる。

尚、開拓の方は順調に進んでいて、この辺りの伐採も始まった。

今はあの魚、俺の愛すべき光のルアーを奪ったぬしの息の根を止める事だけを考えている。俺がどうしてあのぬしを一方的に敵対視しているのかそれは夜になると沼の底で光のルアーがじんわりと光っているからだ。

まるでお前は敗者だ。と言われている様でムカツク。ただそれだけの理由。

しぇりるだ

迷いもなくしぇりるさんなんですか?

しぇりるは泳げる。何より銛スキルでドンッだ!

やはり、そういう趣旨ですか

硝子の呆れる様なジト目を眺めつつ、俺はペックルが表示させたウィンドウにしぇりる』と名前を入力する。

確かあいつは空欄とか記号とか無いはずだから、ひらがなでそのまま入力すれば良い筈。一応はフレンド欄からコピーペーストして入力した。

ともかく、今必要な人材と言えばしぇりるだ。

しぇりるしか考えられない。

俺にはしぇりるが必要なんだ。

ディメンションウェーブから数日が経っている。

アップデートで追加されたアイテムや装備をそろえた頃だろう。

突然呼んでもそこまで迷惑は掛からないはず。

いや、突然強制召喚の時点で相当迷惑掛けているけどな。

ともかく、しぇりるが居てくれればどうにかなる!

そうして翌日。

朝一に浜辺に行くと垂直にうつ伏せで倒れている、しぇりるを発見した。

俺は有無を言わさずにスクリーンショットを撮った。

私の時も同じ事をしていましたよね

おっと、硝子の中で俺に対する評価が低下中だ。

まあ今まで褒められる様な事をしていたのか、と尋ねられると微妙なんだがな。

ともかく硝子も何枚か撮ったのでしぇりるでも撮っておこう。

いや、この際流れ着いた奴は全員撮るとしよう。思い出的な意味で。

よし、もう少し近付いて。

ほっ!

硝子と同じく俺の足に手を伸ばしてきたので避けた。

しぇりるの手が空ぶった所でしぇりるの意識が回復する。

まあ元々静かな奴だから、あんまり変わらない様な気もするけど。

絆と硝子

おう。光のルアーはお前の手に掛かっている

絆さん。お気持ちはわかりますが事情を説明しないと

理解してくれたぞ

きっとそのそう』はそう、わからないわ、のそうですよ

あ、やっぱり?

だよな。俺も同じ事をされたら相手に事情を詳しく尋ねるし。

ともあれ、しぇりるとも合流を果たした俺は硝子と同じく、これまでの経緯を話した。

前回との違いは硝子が来てからの話位だ。

そっちはどうだった? 第二波とか

大丈夫だったのは解ったが、詳細はわからん

衝動でしぇりるを選んでしまったが、外界の情報を得るには失敗だったか?

かといって誰かが特別必要だった訳でもないからな。

まあタイムアタックしている訳でも無いし、できる限りの事をすれば良いか。

幸いしぇりるは半製造スキル構成だ。開拓関連も多少は理解してくれるはず。

とりあえず案内をするよ。池とか池とか池とかな

絆さん、本音がタダ漏れです

道案内する時に池を連呼する。デートコースとしては最悪だな。

まあデートなんかした事ないけどさ。

池の事は一度忘れて、カルミラ島を案内するとしぇりるは思いのほか反応が良かった。

もちろん俺がそう思っているだけで実際はわからないが。

一応少しは意思疎通ができている自分を信じよう。

しぇりるは特に伐採と採掘に興味を示した。

確かにあれ等の材料から船を作れる可能性は高いので自明の理なのか。

そういえば船は誰が持っているんだ?

ヤミとアル

アルアルトか、なんでアルトも持っているんだ?

新しく作った

新しく?

ん。今、流行してる。アルに作らされて、金袋を置いていく

え~っと言葉を繋いでいくとこうか。

今まで俺達が使っていた船は闇影が所持していて、第一都市の方で船造りが流行している。金を稼げると踏んだアルトが、しぇりるに大量発注させて儲けた。

こんな所か。

しかし、そうなると前線組も海を目指し始めているという事になるのか。

あっちでどうなっているかは知らないが海も注目を浴び始めていると。

まあ船造りたいなら作るか? 材木と鉱石をちょろまかせば結構な量手に入るぜ

見てからじゃないと

そうか。じゃあ後で見といてくれ。最悪欲しいのなら自分で採取もできる

一通り建物やら、ペックルやらを説明していく。

最近ではペックルにしか効果が無い建物が多いが中は面白い。

例えば病院にはナースペックルとドクターペックルがいる。

もちろん頭にナースハットとヘッドミラーを付けたペックルだ。

ペックルダンジョンから冒険5匹組現在職種が増えた冒険チームが拾ってきた。

効果が上がるのかは微妙だが、病院に常駐させている。

さて、池行こうぜ

ぬし釣り?

いく

さすがしぇりる、話がわかるな

若干満足気のしぇりるを連れて池に向かった。

あれから数日経っているので伐採で少し更地に変わって歩き易くなっている。

草が茫々だった道は土が固められて、斜面は木で崩れない様に補強された土階段だ。

未完成なので池までの途中で、坂道になっているけど。

そうして見えてきたのが憎き池。

ちなみに釣れる魚はコイなどの淡水魚が多い。

よし、しぇりる。あの下の方に見える巨大魚を銛で仕留めてくるんだ

釣らないの?

釣ろうとしたら糸が切れてな

しぇりるは銛を構える。

銛は以前使っていた物よりも豪華になっている。

なんとなく柄が勇魚ノ太刀に似ているのは気の所為だろうか。

そういえば以前、巨大イカの素材を渡していたな。

エイハブスピア

銛の名前。お礼、言おうと思って

エイハブってなんだ?

何かの造語か、それとも意味があるのか。

白鯨

はくげい?

小説の登場人物

なんか聞いた事あるような無いような。

まあどっちにしても、何故ぬし系から作られる装備は対鯨系が多いのか。

このゲームの作者は鯨に何か思う所でもあるのだろうか。

縁起は良くない

負けた人の銛だから

へ~

それでも効果はしぇりるが所持している武器の中で一番高いそうだ。

まあ俺もケルベロススローターが無ければ未だに勇魚ノ太刀を使っていただろうし、入手難易度から性能は高いのだと思う。

ともあれ、性能の高い銛があるなら巨大魚も楽勝だな。

池の巨大魚は他の場所と違って良く見るとぬしが見える。

位置を教えるとしぇりるは小さく頷き、銛を構えた。

蒼白い紐が銛に繋がった。

以前よりもスキルランクが上昇しているのか発光する色が強くなっている。

それは射出時も同じく、爆発エフェクトが以前よりも大きい。

発射された銛が池深く進んでいく。

届かなかった

射程外かよし、しぇりる。潜って殺るんだ

言動がマフィア

そこまで大規模な親玉ではないんだが。

せめてヤクザと言ってほしいじゃなくて、俺は普通だよ。

なんだかんだ言いながらも、しぇりるは池に潜って銛を構える。

そういえばスキルはスキル名をしゃべって使うけど、水の中ではどう使うんだ?

今度聞いておこう。

お、戻ってきた。

当てたけど、反応無し

しぇりるは池から上がり水を滴らせながら言った。

銛なら水棲モンスターに有効だし、巨大イカ戦で効いたからいけると思ったんだがダメだった様だ。

そうなると正攻法で釣らないといけない訳か。

あれを釣るのは至難の業だががんばってみるか。

まあ木材と鉱石でも見に行くか?

こうしてカルミラ漂流記にしぇりるが加わり、島は賑わっていった。

尚、しぇりるに遭遇したければ伐採、採掘、海、拠点のどれかに行けば会える。

別にギャルゲーではないので優先的にこれ等を選択する必要はない。

ともあれ元々海女だった所為もあり、翌日には生活に馴染んでいた。

ランダム召還

しぇりるがカルミラ島に流れ着いて一週間も経たないのにサンタ帽子ペックルがお決まりのセリフを言った。

現在目に見えて欲している人材はいない。

紡でも良いが戦力に困っている訳では無いので悩み所だ。

情報という面でアルトが無難か。

闇影は、悪いが下手に呼ぶと大きな事件が起こりそうなので後に回す。

ちなみに三回目にして態々フレンド欄からコピーペーストしなくてもフレンド登録されている人物なら選択できる事が、ペックルの表示させたウィンドウで判明した。

だからフレンド欄から誰を選ぶか決められる。

取り敢えずは硝子としぇりるに聞いてみてから決めよう。

そう思って二人の所へ歩き出そうとしたのだが。

真後ろで。

ペーン!

うわ!

突然ペックル探検隊の方々が飛び出してきた。

場所が悪かったな。

丁度ペックルダンジョンである小さな穴の前で呼び止められたんだった。

まったく。

サンタ帽子ペックルが突然、完了セリフを言いながら立ち去ろうとしている。

名前の入力画面も消えていて、まるで誰を呼ぶのか決めた後みたいな。

待て待て!

会える事を祈っているペン

反芻すんな!

どうしてそこでそのセリフ?

呆然とする俺を余所にサンタ帽子ペックルは無常にも仕事に戻っていった。

だ、誰を呼んだ?

フレンド欄にいる奴だから、そこまで問題無いとは思うが、闇影でない事を祈るか。

まあいっか!

そんな風に甘く考えていたのが不味かった。

翌朝、俺は硝子としぇりるを連れて、特に危機感を抱かずに浜辺へ向かった。

その人物は例に漏れずうつ伏せで垂直に倒れている。

もはやスクリーンショットを撮るのは俺のライフスタイル。

とてもじゃないが、謝って許される様な相手で無くても撮影する。

わかっている。わかってはいるんだ

これはある種の現実逃避だ。

近付いて一枚スクリーンショットを撮った所で伸びてくる手を避ける。

むここはどこだ? 君は絆君ではないか。何故土下座をしているのだ?

そう、今俺はその人物に向かって土下座をしている。

以前、大分前にフレンド登録をしていた、数少ない俺の仲間以外の人物。

不幸にもその人物を昨日引き当ててしまった。

そう、前線で武器を作っている製造職ロミナだ。

そもそも君はいや、君達は行方不明だと聞いたのだが

本当すみません! 悪気はなかったんです! こいつ等が悪いんです!

何故そこでその返答?

ロミナは胸に赤い宝石を付けている、しぇりると同じ晶人だ。

アルトと同じく非戦闘スキルである、製造系に属するプレイヤーで、俺のケルベロススローターや勇魚ノ太刀などを作った人でもある。

ふむ謝罪は聞き入れるとして、事情を説明してくれないか? 話はそれからだ

俺は大まかにこれまでの経緯と、昨日の事を話す。

要するにリミテッドディメンションウェーブからカルミラ島開拓の事だ。

ふははっ! 前々から思っていたが君は面白いな。それで誤って私を呼んでしまった訳か。くふふっ本当に面白い

えっと~

そうだな。こちらも事情を話そう。実を言えば闇影君から断片的な話は聞いていた

と言いますと?

ロミナの話によると闇影はしぇりると行動を共にしていたらしい。

そのしぇりるが消えて、闇影はどうにも幽霊の仕業とか言い出したそうだ。

アルトは何を思ったのか商売仲間であるロミナに闇影を押し付け、元々面倒見の良いロミナは闇影を匿っていた。

そんな矢先、ロミナは間違ってカルミラ島に流れ着いた、という経緯だ。

本当すみません!

ふむ。わざとではないのだろう? ならば責めはしないさ

いや、でもここから出られないし

問題無い。実を言えば武器作成に飽きてきた所だった。人気鍛冶だの言われているがやる事は一日中鍛冶スキルを使うだけだからね。というか、最近私をNPCか何かと勘違いしている輩が増えてね。何回かあれ? 商売スキルが発動しない』とか言った日には打ん殴ってやろうかと思ったよ。それでそろそろ一回休みを入れようと思っていたんだ。闇影君との生活もその延長線だった。だから丁度良い。この島にはそのペックルだったか、がいるのだろう? 彼等の施設で良さそうな物を使わせてもらおう

そ、それなら優遇できる

では、興味が湧く物を探してみるとしよう。それと以前の口調で良い

こうしてロミナがカルミラ島開拓史に加わった訳だが。

なんというのかさすがは前線で製造職をしていただけはあるって感じだ。

まずロミナが興味を抱いたのは工房という施設だ。

元々はペックルが道具を作る施設なのだが、使おうと思えば人でも使える。

優遇すると言ったので工房のレベルを優先的に上げるとロミナはカルミラ島で手に入るアイテムで道具を作り始めた。

アイテムが足りなくなれば採取や採掘なども始め、楽しそうにしている。

開拓者の七つ道具とやらだけでは不便だろう? 道具製造も取る事にした

などと各方面にスキルを取得し気が付いた頃には工房がなんでも屋になっていた。

俺も釣竿を作ってもらった。

気後れする俺に対する一言はこれだ。

この島は最高だな。私だけ別のゲームをやっている気分だ。素材もかなり良い。次防具製造を取ろうと思うのだが、絆君はどんな装備が良い?

いやまあ、そうなんだけどさ。

ともあれ最初こそ無関係な人物を呼んでしまった罪悪感から気後れしていた俺だったが、ロミナの人となりもあって、すぐに関係は良好になっていった。

元々俺も生活系スキル、まあ釣りだけだが、とプレイスタイルが若干近かったので話も合うのも理由か。

しぇりるの船に対する考えにも関心を示していたし、硝子の武器についても言及していた。まあ良く言えばリーダー気質のある人物がロミナだ。

絆君。前から気になっていたのだが、ペックルの探検に戦闘系以外を同伴させるのはどうだろうか

あー持ってくる物が変わったりとか?

可能性の話としてだがね

実験してみるか!

うむ。私はペックルの個体に詳しく無いから、絆君に任せよう

こんな感じでカルミラ島のシステムに貪欲なのも良かった。

ある意味、他三人よりも遥かに良い人材を呼んだと言える。

まあ本人が楽しそうだから良いけど、もしも喧嘩になっていたら問題あるよな。

これからはくれぐれも気をつけるとしよう。

ともあれ、頼りになる仲間がまた一人増えた。

前線から頼りになる鍛冶師を消した事実は耳を塞ぐ。

インスタントダンジョン

お久しぶりです。

前回までのあらすじ。

開拓をする事になった絆。

間違ってフレンドのロミナを召喚してしまった。

ロミナの助言でダンジョン探索に行かせるペックルを選ぶ事にした。

夢を見た。

夢の中の俺は勇者になっていて、仲間達と共に大冒険をしている。

そして釣りをしたり釣りをしたり釣りをしたりしていた。

今と対して変わらないな。

やがて仲間達と別れ、迷宮で釣りを始め、サバイバルをしている様な本当、今と変わらない。

それから月日は流れ、俺は夢の中で仲間達と共に敵』と戦っていた。

相当追い込まれている様で、所謂苦戦しているという奴だ。

ただ、夢の中の俺は運動神経が良い。

実際はこんな事は出来ないだろうな。

ん? 仲間達が倒れかけたその時刀を携えた狸耳の女の子が

ハッ夢か

周囲をキョロキョロと眺めるとカルミラ島にある、俺の家のベッドだった。

変な夢を見たな。

というか、ゲームの中で夢って見るんだなぁ。

これって夢の中で夢を見る様なものなんじゃないのか?

まあ、いいか。

さて、今日もがんばるか

そんな訳で、ロミナの意見を参考に行かせるペックルに戦闘向けじゃない奴を混ぜてみた。

とりあえずサンタ帽子のペックルを混ぜてみる。

何でも出来る奴だから卒なくこなすだろう。

行ってくるペン!

そう、戦闘向けのペックル達を引き連れて行くペックルに手を振る。

そういえば指揮の熟練度はダンジョンに行かせると増える。

戦闘の指揮だったんだなー後は開拓時に微妙に上がる。

俺の意図を察する意味もあるみたいだ。

その後、俺は日課にしている釣りをする。

硝子は狩猟に行ったっけ、ロミナは工房で鍛冶をしてる。

しぇりるも工房で船作りをしている。

ただ、しぇりるの話だと船で島から出るのは難しいっぽい。

増え続けるペックル達の食料を確保するために船での漁を計画中らしい。

投網漁かな?

そんなこんなで時間を潰しているとペックル達が帰って来た。

相変わらずのテンションだ。

もう驚かされない。

報告だペン!

見つけてきた物を確認する。

戦闘向けのペックル達の熟練度がそれなりにあるお陰か複数枚の設計図を持ってくる。

お? ペックルが作る家のバリエーションが増えている。

しかも何匹か新たにペックルを見つけてきた様だ。

噴水、柵も作成可能になった。

畜産に使う牛舎もあるぞ。

おお

形だけの柵だった牧場がやっとらしくなるって事かもしれない。

やっぱりロミナの言った通りになった。

行かせるペックルによって発見する物にバリエーションがあるようだ。

最近じゃあダンジョン探索で見つかる物がマンネリだった故に良い感じ。

そんな訳でローテーションを組んでペックル達を出撃させ続けた。

結果。

新たにインスタンスダンジョンを発見したペン。付いてくるペン

サンタ帽子ペックルの報告を聞いて首を傾げる。

硝子達を連れてペックルの案内に着いて行く。

するとペックル達が入って行く穴の隣に大きな扉が出来あがっていた。

みんな入れる様になったペン。力を合わせて攻略して開拓をするペン

これって私達もダンジョンに挑めって事でしょうか

たぶん。そうだろうね

まあペックルが増えてきて、熟練度も上がってきた所為でやる事が大分減って来ているのは事実。

だからロミナやしぇりるは物作りに集中できた訳だし。

そもそもこの島で一定の人数が生活している。

中には硝子の様に戦闘向けなタイプが含まれる可能性もあるだろう。

ここが一定期間脱出不可、という制限がある以上、そういった連中向けの施設が準備されていたんだろうな。

ゲーム的な意味で。

インスタンスダンジョンまで完備されてるとはね

どんなダンジョンなんでしたっけ?

ロミナが若干呆れていると硝子が質問する。

わかりやすく言うと、他の人とは競合しないダンジョンという所かな

最初に入るメンバーを決めて入ると出るまで同じ編成、ダンジョン内で人とは会わない。オンラインゲームでは割とありがちな仕様だ

な、なるほど

島にいるのは俺達だけなのに競合相手が前提って何か意味があるのか?

存在の意味が疑問なんだが。

もしかしたらこの島に大量に人が来る様になるのだろうか?

まあVRとはいえオンラインゲームなんだから、特定の個人だけがプレイ出来る設備、というのは不公平だ。

後々何かある可能性は高い。

とはいえ、インスタンスダンジョンかー

ロミナが腕を組んで俺達の方を見る。

うん、わかる。

何を言いたいのかわかる。

硝子くん以外はあまり戦闘向けなタイプに見えないが、入ってみるかい?

まあそうだよね。

俺は釣りと解体担当、しぇりるは泳ぎと船作り、ロミナは鍛冶全般で単純な戦闘が得意なのは硝子しかここにはいない。

しぇりるが二番目かなー?

ロミナに関しては詳しく知らない。

だけど、スキル構成的に厳しいはず。

ロミナは戦闘が得意?

生憎と武器作りしかしていないから其処まで得意でも無いよ。精々友人と一緒にそれなりにLvを上げたくらいさ

そうだよな。

今まで製造に特化していた訳だし、そうなるよな。

俺も多少は戦える程度だしどの程度のダンジョンなのか未知数なのがちょっとな

未知のダンジョン少々興奮する出来事だと思いますよ。皆さん、やってみませんか?

硝子はともかく、しぇりるがやる気を出している。

悪い手じゃないとは思うけど、ここって王道から逸れた若干先の狩り場&ダンジョンなんだよね?

このメンバーで大丈夫なのか?

すまない。少々忙しくてね、今回は遠慮させていただくよ

ロミナが断った。

この中じゃ割と忙しい方だから、ダンジョンまで同行させる必要は無い。

役割分担がMMOの醍醐味だからな。

そこは各々適材適所にやっていくのが一番だ。

了解、じゃあ挑戦してみようか。出来る事は多いけど少しマンネリだったしな

という訳で俺達はパーティーを組んでダンジョン内に潜入する事にした。

ダンジョン内に入った俺達。

若干薄暗いけど見えない程じゃない洞窟って感じだ。

かなり湿っぽい感じがする。

相変わらず最先端のVR技術は凄いな。

アレ? 絆さん、いつの間にかランプを持っていますよ?

本当だ! いつの間に!?

リーダーをしていた俺の手に、いつの間にかランプが握られている。

道具/開拓地、帰還のランプ

説明/開拓地のダンジョン専用道具、迷わない様にと授けられるランプ。火を消せばダンジョンから出られる。

脱出用アイテムって奴みたいだ。火を消すと外に出られるらしい

中々便利な道具ですね

escape

しぇりるの台詞だけど妙にイントネーションが良かったな。

硝子が先頭でしぇりるが中衛、俺が後衛という陣形だ。

どんな魔物が飛び出すか興味がありますね

まあね。海の魔物よりは強いかもしれない

なんて話をしながら歩いて行くと、シトラスジェリーというスライムタイプの魔物の群れが現れた。

行きます

なんか戦闘は凄く久しぶりな気がする。

そう思いつつ感慨に耽って居たら。

うお! シトラスジェリーが飛びかかってきた!

うーん?

ビタッと俺にぶつかったけど、痛くも痒くもない。

どうやらステータス的に余裕って事かな?

数分後にはシトラスジェリーの群れを全滅させていた。

解体はどうしましょうか?

やってみるとは言ってもジェリーの解体なんて意味があるのかな?

転がっているジェリーの死骸を持ちあげる。

クラゲみたいな手触り。

一応アイアンガラスキで解体してみよう。鳥用だけど。

んー凄く透明だけど、どうやら内臓があるっぽい。

ジェリー、スライムみたいな魔物なんて想像で補完しなきゃいけないタイプの魔物だ。

ジェリーミート

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